ELDEN RINGと神話モチーフのあれそれ

 

1. ミトラス教と神人ミケラの類似点

エルデンリングの中でも、かの百智卿をしてもその情報が掴めなかった存在が神人ミケラです。

彼の元ネタは恐らく太陽神ミトラ。

ミトラ、ミトラス、ミスラ、たくさんの国で信仰され、その神性も少しずつ異なるため、その全てを書き切る事はできません。
そのため、エルデンリングで元ネタにされたのかなと思うところを中心に書きました。
ミトラ教に興味のある方は、是非調べてみてください。

ミトラの名前は、古くはペルシア神話(ゾロアスター教)に見ることができますが、ヘレニズム文化と交わり、ローマ帝国に入った事で今に伝わる形が完成したと考えられています。

ミトラは愛と正義で世界を統治する神だそうです。

ゾロアスター教の経典アヴェスターには、こうあります。

①創造神ズルワーンから王権がアフラ・マズダに譲られた
②双子のアーリマンがそれに不満を持ち、世界を破壊、世界が死滅する
③ミトラが現れ、世界を救った

→双子の神(兄弟)の闘争とありますが、この図式「のみ」において、モーグ、モーゴットのモチーフをアーリマンとアフラ・マズダと若干重ねることができます。
(アーリマンとアフラ・マズダ自体にはモーグ、モーゴットとはほぼ共通項は無さそうです)

ここは妄想の域を出ないのですが、
個人的には、ミケラは自身が意図してモーグにその身をさらわせたのだと考えています。

双子のうち、モーゴットはエルデの王になりました(実際には黄金樹に拒否されましたが)

ミケラがモーグを唆し、攫わせなければ、もしかすると王の選定に不満を持ったモーグが世界をどうにかしていたかもしれません。
モーグは地下で真実の母の天啓を受けて呪いを愛するに至っていたので、王都にはそれほど未練はなかったような気もしますが。
しかし、新しい王朝を作るという誇大妄想的思考そのものは、ミケラのものではなくモーグのものだったのではないかと考えています。

どちらにせよ、とにかくミケラがモーグに自らを攫わせた事には何か意図があったと考えられます。

→次に、ミケラ関連でゲーム内で非常に分かりづらいのが、ソール砦関連だと思います。
私も全容は分からないので、とりあえず元ネタとして分かる範囲で書いていきます。

以下幻影の台詞・フレーバーテキスト引用

「…おお太陽よ!ソールの冷たい太陽よ!
どうか、蝕まれ給え、魂無き骸に再誕をっ…」

「…申し訳ありませぬ、ミケラ様 まだ、太陽は蝕まれませぬ。我らの祈りが弱いばかりに
貴方の友は、魂無きままなのです…。…もう、見ることは叶わないでしょう 貴方の聖樹を」

“ソールの城砦に所蔵される宝剣
蝕まれ、色を失くした太陽を象ったもの
ソールでは、それは絶望的畏敬の対象である
人は、大いなる恐れから、目を背けることができない”

“魂無きデミゴッドが眠る、さまよう霊廟
蝕まれた太陽は、その象徴であるという”

“デミゴッド最初の死者たる黄金のゴッドウィンを弔う墓標剣。
少年の静かな祈りが込められている。
兄さま、兄さま、正しく死んで下さいな。”

テキスト引用終

→上記から、ミケラは黄金のゴッドウィンを兄さまと慕っていたことが分かります。

ここで、実際のミトラ教に戻りますが、今でいうクリスマスの日付けは、元はミトラ教のものを転用したとも言われています。(聖書にはキリスト誕生の日付における記述はありません)

ローマ帝国時代の冬至は12月25日でした。
この時代においてはミトラ教はミトラス教と呼ばれており、ミトラス教徒は太陽神ミトラスが冬至に再誕すると信じていました。
そして、冬至である12月25日は「不敗の太陽神ミトラス(ソール・インクトゥス・ミトラス)」を祝す祭典だったのです。
なぜ冬至に再誕するか、それは、冬至を境に少しずつ日が長くなるため、冬至をゼロ、つまり始点としたという訳です。

エルデンリングでは、ソール砦において、黄金のゴッドウィンは冬至でこそありませんが、日蝕によって「再誕する」としています。
日蝕も、その日をゼロ、始点として見ることができますので、再誕する日としては適切だと思います。(機会は冬至よりもすごく少ないですが)

しかし、エルデンリングにおいて、日蝕の時に訪れる「大いなる恐れ」とは何なのでしょう。日蝕は絶望的畏敬の対象なのだそうです。目を背けることができないと書かれていますね。
大いなる意志や何かが、その再誕を司るのでしょうか。

また、不敗の/太陽神/ミトラス→から転じて、不敗のマレニア・黄金のゴッドウィン・ミケラという神人たちの原型を見ることができます。

→ミトラの誕生について

ミトラの誕生も示唆的です。
彼は星の壁画の描かれた洞窟の中で、母なる岩から、赤い炎を纏って産まれるそうです。
また、「松明を掲げ、大人の姿で生まれてくる」のだそうです。

エルデンリング内ではミケラは洞窟の中ではありませんが、満点の星の元でその繭を血で満たされています。
「母」や、「赤い炎」というワードも共通しています。

ミケラは幼い神人であると言われていましたが、いつかあの繭から出てくるときには大人の姿なのでしょう。
余談ですが、ラスボス戦のムービーでラダゴンがマリカの槌を掲げていた姿は、松明を掲げているようにも見えました。それはミケラ誕生時の姿と似ているのかもしれませんね。

→ミトラス教を広めたとされる者たち

・軍人、兵士
・商人
・奴隷

エルデンリングでは、
・従軍医師
・商人
・被差別民

が連れてこられていました。
現実のミトラス教を支持したのは主に下層階級の人間だったそうです。
ミケラの「弱きものに愛を与える」という性質と一致しています。

→通過儀礼について
ミトラス教は、ある種の密教、邪教的性質を持っていました。信者は少なく、教義を外に漏らすことはせず、一部を除いて女人は禁制。信者には通過儀礼があったと言います。

その通過儀礼はなんと、「赤く焼けた鉄で額に印を付けられる」ものだったと言います。(必ずしも全員ではないのと、時代によって方法が変わるようですが)どのような印だったのかは伝えられていません。十字とする説もあったようです。

エルデンリングとの関連性は、言うまでもありませんね。
マスク下データではありますが、モーグウィン王朝勢は、その顔にモーグの聖印(呪印)が刻まれています。エレオノーラには印無いですね。

→女人禁制について
ミトラス教は、例外を除けば女人禁制であったと言われています。
その例外が何かは調べても分からなかったのでとても気になります!
王朝内のしろがねたちが第二世代ばかりだったのはそういった側面があるのかもしれません。
もしそうであれば、やはり例外的にエレオノーラが入っていたというのも興味深いですね。

二次創作の設定にも生かしたのですが、私の個人的な解釈では、エレオノーラだけは最後までモーグの血を受け入れなかったのではないか(なので浄血をドロップする)と考えたので、印の有無にしてもその辺りに何か由来があるかもしれません。

→ミトラが成すこと
「聖牛の供儀」を行うミトラのレリーフは、ミトラス教を伝える数少ない物のひとつです。

ペルシア神話において、「聖牛の供儀」とは、アーリマンとアフラ・マズダの闘争の果てに死に絶えた世界を再生させるためのミトラの儀式でした。

儀式を成した後、ミトラからは樹木が立ち上がり、世界が再誕したそうです。

ミケラの聖樹はここをモチーフにしていそうですね。

ローマ以降のミトラス教の教義では、少し趣が異なります。エルデンリングでは下記の方をメイン採用していると思われます。

①混沌で満たされた原初の時代、時間の神が天地を創造した。次の神の時代、父の手下であった巨人族を退治した。

→やや不確定ですが、エルデンリングでの時間の神はファルム・アズラに関連するのでプラキドサクスの事かと思います。
そして、確かにその後の時代には巨人戦争がありました。巨人は黄金の勢力と対立していたため、混沌側(三本指勢力?)と見るのが妥当です。

②ミトラの時代到来。洞窟より誕生。
豊穣の恵みを世界に与えていく。

③更なる恵みのためには「贄」が必要と考え、聖なる牡牛を犠牲にすることを決意。

これはペルシア神話にも出てくる「聖牛の供儀」です。
彼は聖なる牛を洞窟に連れていくとそれに跨り、その鼻づらを押さえつけて牡牛の首に鋭い短剣を突き立てます。
牡牛から流れる血に犬と蛇が飛びつき、睾丸にはサソリが飛びつきます。
また、レリーフの周りには松明を持った二人の神と、太陽と月・風・十二宮・カラスのシンボルを伴います。

→エルデンリングではミケラは眠ったままなので、②の段階が到来していません。
これは完全に妄想の域を出ませんが、ミケラに「贄」とされる牡牛、それはモーグを暗示しているのではないかと感じました。

死ぬ時に短剣のような武器で首元をブスリと刺され、犬と蛇とサソリに飛びつかれるという暗示。
側には松明を持つ二人の神。松明はそれぞれ「霊火のトーチ」「トリーナの灯火」とかだと面白いですよね。(完全なこじつけ妄想としてお楽しみください)トリーナの灯火のテキストには、”彫刻の意匠は聖女トリーナであるはずだが、その姿は大人びてどこか恐ろしい”と書かれています。
ミケラは誕生した時には大人であるからして、ミケラ=トリーナであるなら、この時点でのトリーナも大人の外見なのかも。
太陽と月・風・十二宮は、洞窟内に施される壁画です。この中で牛殺しは行われるそうで、宇宙を意味しているのだそうです。
最後に「カラス」のシンボルが出てきます。
「カラス山の凶手」は死の鳥にまつわる者たちなので、何やら鳥葬あたりと絡んでくるのかなとか思っていたのですが、ここで直接的にシンボルとして出てきたのでびっくりでした。
カラスが繋がったことで、死の鳥関連だった霊火の灯火が登場する意味も回収出来た気もしなくもない。

つまり③によってモグミケからミケモグになるかもしれないということですね。
逆CPは争いの火種です。
やはりミケラはマレニアの言うとおり、恐ろしい神人なのかもしれません。

④牛が死んだ後、太陽神が地上に舞い降り、ミトラと盟約を結ぶ(握手を交わす)
ここへきてようやく、ミトラは太陽神ミトラとなる。
殺した牛の肉(パン)と血(ワイン)を共に餐する。
最後に、太陽神の戦車に乗って昇天。

→ここでいう太陽神とは、ゴッドウィンではないでしょうか。何らかの理由で日蝕が起き、死王子は蘇り、ミケラと握手を交わす。
牛(モーグ)を殺すことで運命が動き、ミケラが望む未来がやってくるのかもしれませんが……。どうでしょう、すでにモーグは褪せ人が殺してしまいました。この後の事はDLCで明かされたりするのでしょうか。

→ミトラの七大神

これで最後の項目です。

ミケラの守護天使たちについて

7つの神であり、それぞれに守護惑星を持っています。

以下階級順です

①サトゥルヌス(土星・サターン)
最高位・父
シンボル→収穫の鋏・フリュギア帽子(先の曲がったとんがり帽)・錫杖・指輪

②ソル(太陽 サン)
父の補佐・太陽神の使者
シンボル→光背・松明・鞭

③ルナ(月 ムーン)
収穫の守護者・ペルシア人
シンボル→フリュギア帽子・鋏・鎌

④ユピテル(木星 ジュピター)
ミトラと共に狩に出るもの・レオ(獅子)
シンボル→雷・降鈴・火
レオは火を扱うため手を蜂蜜で清められた

⑤マルス(火星 マーズ)
戦士・ミレス
シンボル→槍・兜・背嚢(リュックサック)

⑥ウェヌス(金星 ヴィーナス)
盟約の象徴・花嫁
シンボル→松明・冠・ランプ

⑦メルクリウス(水星 マーキュリー)
メルクリウスの代理人・大ガラス
シンボル→酒杯・カドゥケウスの杖
メルクリウスは神々の使者であり、死者の導き手、商人・羊飼い・博打うち・嘘つき・盗人の守護者とされた。

→エルデンリング内において
それぞれ誰かの寓意になっていそうですよね。
私の独自解釈ですが

①レナラ
②ラダゴン
③ローレッタ
④火の巨人
⑤聖樹騎士
⑥聖樹兵
⑦カラス山

シンボルなどから上記のように取れたのですが、どうでしょう。
初っ端の①からして謎ですけど。
ミケラはもしかするとレナラ・ラダゴンの子どもなのでしょうか?琥珀のタマゴ、幼年のままの姿、という事で繋げられなくもないのですが……。うーん。
双子の妹マレニアは、女王マリカが永遠であったせいで生まれに澱みが生じ、腐敗を宿しました。(奇しくも不敗との引っ掛けになりましたね)
双子なのに異母兄妹とは意味不明ですがフロムなら無くもないか……と思ってしまったり。

あと、ここまで色々と符合を探してきましたが、トリーナについてはほぼ回収出来ませんでした。
トリーナは何か別の要素を持ってきているのだと思います。

7/18追記:トリーナについて、ズルワーン教・ミトラ教・マニ教において、ミトラはズルワーンの化身であるとされるそうです。
ズルワーンは永遠なる平和の神「永遠時間の神・万物の根源」といわれ、ミトラが活動相・ズルワーンは潜在相とされています。
この辺りから、ミケラの潜在相であるトリーナ=眠りの象徴とされたのかもしれませんね。:追記終

ミケラの象徴である無垢金も見つけられなかったのですが、ミトラス教においては蜂蜜が儀式等でも使われるようなので、半ばこじ付け的に用いれば蜂蜜を聖樹の琥珀、及びそこから生じる無垢金の寓意と解することもできそうです。

長々と書いてきましたが、思った以上に共通項があって驚きでした。それっぽく書きましたけど、個人で楽しむ程度の全部こじつけの妄想です。もちろん鵜呑みにしないでね。こういうのを「こうだ!」って言っちゃうとそれはただの変な人になります。

それはさておき、ミケラについてのDLCが来ることを楽しみにしています!!

※Web媒体をメインに見ましたが、ファクトチェックが出来なかった項目は除外しています。

参考:Wikipedia ミトラ教
「東洋美術史」美術出版社
「世界の神々の事典」学研 など

 

2.文明の起こりについて

未だ明かされていることの少ないエルデンリングの原始文明。ファンタジーと言えど人間族の起こした文明の発展は、現実世界の要素と多分にオーバーラップしていると思うのでちょっとそんな要素がないか調べてみました。

 

◆王朝遺跡について

【エルデンリング】
・ウル・ウルド(ウルの遺跡、ウルドの王朝遺跡)

【現実世界】
・メソポタミアの都市国家 ウル・ウルク・ラガシュ

→都市国家とは、村などが幾つか集まり、神殿などを形成した古代の国の形です。日本にも似たような起こりの邪馬台国がありました。古代国家において、コミュニティの長は王であり、また直接的な神とされました。

ウルの王朝遺跡・ウルドの王朝遺跡はエルデンリング内では名前だけであまり意味のない場所なのですが、ここからエルデの世界は文明を起こし、発展していったのだと思われます。

ウルの王朝遺跡・ウルドの王朝遺跡にはかつての神殿の残骸が見られます。

現実世界でのウル・ウルクにあたる概念が存在するため、もしかしたらラガシュにあたる都市国家もどこかにあるのかなと考えてみましたが(妄想)候補としてはモーグウィン王朝が居抜きしているあの場所が有力かもしれません。

他の元ネタがあるのかもしれませんが、エルデンリング内のウル・ウルドに散らばる巨頭群は、トルコのネムルト・ダーゥ(カナ表記揺れあり)を参考にしたのかなと思いました。
こちらも紀元前の王朝遺跡で、世界遺産として有名な場所です。「祭祀場であったのか、王の墓であったのか」は分かっていません。
ネムルト・ダーゥの神々の像が破壊されていることについては、自然によるものという説と、異教徒の偶像破壊運動によるものとする説があります。

エルデンリング世界でウル・ウルドの王朝遺跡は、ノクステラ・ノクローンの原型だったと思われます。先ほど少し触れましたが、古代国家では自らの王を神と同一視します。ノクローン・ノクステラでも例外ではなかったようで、王を擁立し、自分たちの王を神とするために、神人の使いである指殺しを企てました。
それが大いなる意志の逆鱗に触れ、地上にて栄えていた文明は「暗黒の落とし子アステール」によって滅ぼされ、地下世界へと葬られました。
ウル・ウルドに散らばる破壊された巨頭群については、その時の事実に由来するのではないかと思います。

 

◆河川について

【エルデンリング】
・エインセル河、シーフラ河

【現実世界】
・チグリス、ユーフラテス河(インダス河・ナイル河・長江など)

→現実世界の都市国家ウルクは、ユーフラテス河の隣にありました。

「エジプトはナイルの賜(たまもの)」という古代ギリシャの歴史家、ヘロドトスの言葉の通り、文明の起こりと繁栄は大河の側、というのは古代史において相場が決まっています。

もちろん、エルデンリング古代文明のウル・ウルド王朝も河の側で発展したわけですね。
この辺りの設定、細かいなと感心しました。

エインセル・シーフラの名前は、”チグリス・ユーフラテス、インダス、ナイル、長江”
から、「江(エ)」「イン」「ル」、「ユーフラ」などの文字列の一部をもじって響きを整えたのかなと思いましたが、これは「信じるか、信じないかはあなた次第です」的なこじつけです。エインセルとは妖精の意もあるようですね。

 

◆生命の起源について

生命の起源については、宗教学的アプローチと、自然科学的アプローチの両面を意識する必要があります。

ひとまず『自然科学的側面』から紐解いてみたいと思います。

【エルデンリング】
・原初の生命、坩堝

【現実世界】
・化学進化説

→これはロシアの学者、オパーリンの「スープ説(生命のスープ説)」を参考にしていると思われます。
化学進化説は現代で最もメジャーで支持されている説ですね。

生命は何から起こったかと聞かれると、原初の地球から有機物が生まれ、生物になったと答える方が殆どだろうと思います。化学進化説とは、この解釈に基づくものです。

無機物から有機物が生まれ、生物となり、進化したと考えるこの説において、地球の原初の海は長い時をかけて、アミノ酸などの高分子有機物で満たされた「生命のスープ」となったのです。

エルデンリングにおける「原初の生命とは坩堝であった」というのは、即ち「生命のスープ」状態のことを示唆していると解されます。

少し脱線すると、坩堝とは、元の意味は「実験で物質を溶解するための容れ物」なのですが、転じて「溶けて混ざりあった様」の比喩として使われます。
カンカとも読みますが、カンカ読みは慣習的に容れ物の方を指すため、比喩的表現ではルツボ読みが適しています。 例)”人種のるつぼ”等
(坩堝の騎士については別項にまとめています)

狂い火における、全ての生を焼き溶かし、再誕を断つというのはこのスープ状態にまで戻すという事なのでしょう。

二本指側、つまり黄金に生きる者たちは魂の再誕、輪廻転生を非常に重要視していました。
原初の状態にまで戻されてしまうと、魂も身体も無くなり、再誕そのものが不可能になります。そのため、メリナは「生を否定するな」と怒ったのではないでしょうか。

狂い火エンドを原初の状態に戻す行為だと解すると、自然科学的に見れば「生そのものの否定」にはならないのですが、黄金樹信仰という宗教的見地からすれば、魂と肉体の再帰性を失わせる行為は、紛れもなく世界と生命全ての否定と映るのでしょう。

メタ的に見れば狂い火エンドとは、「エルデンリング世界の消滅」と「別世界の誕生」の仄めかしなのでしょうが、この二言だけで終わらせてしまうのは情緒に欠けるので個人的に落としどころを据えてみました。

無機物→有機物→生物への進化は「生命のスープ」から進んでいく通りなのですが、ここで少しSF的解釈を加味してみます。

もし無機物にも生命が宿るとするならば、それは「鉱物生命体」です。(いきなり何のこっちゃ)トランスフォーマーに代表されるように「金属生命体」という響きが一般的ですが、なにも金属に限った話ではなく、元々はSFの大家アシモフがその創作物内で「ケイ素生物」とも言った通り、無機物の生命の起こりは「鉱物生命体」とした方がより適切かも。そのため、ここでは一旦、無機物に宿る生命を鉱物生命体、と称します。

エルデンリング世界において、無機物に宿る生命、鉱物生命体とは「結晶人」であり「銀の雫」がありますね。

「結晶人」は
“人には知り得ぬ知性を有し、魔術師たちの賓客であった。”また、”造物主の存在を待ち望んでいる”存在であるとフレーバーテキスト内で言及されています。

結晶人からは微弱な思索が読み取れるともされていますが、一部の鉱物には磁性や帯電性があるため、電気信号を生命の動力源の一端と考えるなら、鉱物が思索するというのも成程、突飛な話ではないのかもしれません。(あくまでも詭弁ですが。)
SFに詳しくないので、結晶人にはもっと直接的に元ネタがあるかもしれませんね。

銀の雫に至っては、雫の幼生のテキストに「銀の雫と呼ばれる変態生物の核。生物と物質の中間にあるもの」とあるように、まさに無機物から有機物への進化の過渡期にある神秘の物体です。

もし、現実世界でこのような物があるとすれば、それは非倫理的な実験に使われてしまうだろうということは想像に難くありません。
おそらく、このことから雫の幼生は「人造人間」と明言されているしろがね人へ繋がっていくのだと思われます。(実際、レアルカリアで人形兵の実験が行われていたり、地下世界の技術であった魂と肉体の転移実験が夜人由来のピディによって行われていたり、しろがね人の由来はその辺りと繋がっていきそうです)

雫の幼生に触れたので、少し脱線ですが近縁の幼生蝶にも言及すると、幼生蝶とはネオテニー、つまり幼形成熟の概念をそのまま生物化したものだと考えられます。

ネオテニーは進化論においても重要で、脳や体の発達は遅いものの、幼い姿を残したまま性的に成熟します。故に環境への適応性が高く、進化の余地が多分に残されている生物とされています。

幼生蝶は全耐性アップのアイテムの制作素材となりますが、これはおそらくネオテニーの環境適応能力の高さをそのままアイテム制作上の性質として落とし込んだものなのでしょうか。細かい!

 

そして、同じ自然科学説の中でももうひとつ採用されているっぽい理論があります。

【エルデンリング】
・エルデの流星、琥珀の星光、創世雨

【現実世界】
・パンスペルミア説

これらの元ネタはパンスペルミア仮説だと思われます。

以下フレーバーテキスト引用

エルデの流星
“かつて、大いなる意志は
黄金の流星と共に、一匹の獣を狭間に送り
それが、エルデンリングになったという”

琥珀の星光(一部抜粋)
“琥珀色に輝く、儚い細片、束の間に流れた星光の残滓。
星光が運命を司るとすれば、琥珀色のそれは神々の運命であるとされる。”

創世雨(一部抜粋)
“それは、輝石の魔術のはじまりとされる。
星見の垣間見た源流は、現実となり、この地に、星の琥珀が降り注いだのだ”

以下セレンの言葉抜粋
“輝石とは、星の琥珀なのだ。
金色の琥珀が、古い生命の残滓を、その力を宿しているように、輝石には、星の生命の残滓、その力が宿っているのだよ。
覚えておくがいい。輝石の魔術とは、星と、その生命の探求なのだと。”

パンスペルミア仮設については、Wikipediaが手っ取り早いので引用させて頂きます。

「宇宙空間には生命の種が広がっている」「最初の生命は宇宙からやってきた(=地球で生命が生まれたのではない)」とする仮説である。この説の原型となる考え自体は1787年にスパランツァーニによって唱えられていた。

1906年にスヴァンテ・アレニウスによって提唱され、この名が与えられた。彼は「生命の起源は地球本来のものではなく、他の天体で発生した微生物の芽胞が宇宙空間を飛来して地球に到達したものである」と述べた。

引用終わり

→「生命の種が、宇宙空間を飛来して地球に到達する」というのはエルデの流星、及び”塊の魔女”セレンが追究している源流魔術の示唆するところの生命の根源の話と一致します。

源流思想とは、生命の探求におけるパンスペルミア説支持派と言い換える事ができそうです。

そして、エルデンリング世界においては先の化学進化説、パンスペルミア説、どちらかが否定されるものではなく、どちらも正しく存在していると見るのが良さそうです。

現に、セレンさんもイベント内で、王となった褪せ人が、もしエルデの生命の秘密に触れたらぜひどのようなものか教えてほしい、と言っています。

ここで、いくつかの解釈ができます。

①宇宙より星の種が飛来。海に着弾し、生命の原初が起こった。

②地球そのものから生命の原初が起こり、またそれとは別に、宇宙より星の種が飛来した。

③生命のスープを司る大いなる意志と、星の種を飛来させた大いなる意志がいる。(大いなる意志は他にもいるかも)

今まで見てきた自然科学的解釈では、①と②が限界になりますし、私たちの世界ではそれで良いのですが、ここはエルデンリング世界です。もちろん、超自然的な存在である”大いなる意志”を無視するわけにはいきません。

エルデンリングの生命起源論は現実世界における自然科学的解釈を超えて、次のステップへと進むことになりそうです。(これ以上はクトゥルフなので一旦とめます)

 

最後に、坩堝の騎士の元ネタが好きなのであげておきます。

「混沌の原初の生命」にはミトラス教の神話と、化学進化説をどちらも内包しています。宗教的に見れば前者ですし、自然科学的に見れば後者なのです。

坩堝の騎士の元ネタについては名前付きの個体を見た瞬間、生物系ジャンル人間ならピンと来たはず。しかし、作中にて16人と明かされていることから、うまく16区分探すのに図鑑とにらめっこしました。一応、下記で間違いないかなと思います。

①シデロス
②リアキス
③オロシリア
④スタセロス
⑤カリミア
⑥エクタシス
⑦ステノス
⑧トナス
⑨クリオジェネシス
⑩エディアカラ
11.カンブリア
12.オルドビス
13.シルリア
14.デヴォン
15.カーボニフェラス
16.ペルム

地質区分は今や細分化されすぎていてまともにカウントすると16をゆうに超えますが、キリのいいところを探すと原生代+古生代でちょうど16になりました。

今の地質区分の命名規則では、日本でも話題になった千葉由来の「チバニアン」があったように「〜アン」と付けることになっていますが、無い方がキャラ名としては良さそうなので語源の方からそれっぽく表記を整えました。
15の石炭紀はカーボニフェラスですが、名前の響きとしてはあんまり良いと思えなくてうーん、という感じです。クリオジェネシスも微妙。

また、16項目を数えている時に、オルドビス紀の詳細区分にとある騎士群の元ネタを見つけました。

①ヒルナンド
②ケイティ
③サンドビ
④ダリウィル
⑤ダーピン
⑥フロー
⑦トレマドグ(トレマドッグ)

地質区分なので大体は地名由来かなと思いますが、全て確認したわけではありません。
皆さんご存知の通り、ダリウィル・フローと言えば猟犬騎士達ですね。
トレマドグはトレマドッグとも表記されるので、ドッグから転じて猟犬属性が付いたのかもしれません。
(直接の関係はない小ネタですが、エルデンリングの神話の原作者であるマーティン氏の代表作、ゲームオブスローンズにも「ハウンド(猟犬)」という騎士が出てきますね。めっちゃ好きなキャラでした)

ケイティが響き可愛いですよね。女の子だったのかな。

坩堝の諸相については生物群に由来するものだと思われますが、よく分かりません。瘤って何でしょうね……。

 

その3 キャラクター及び世界観と神話の繋がり

 

エルデンリングにおける神話のモチーフは非常に多岐に渡っています。

ミトラス教におけるミケラのように明確なモデルがいる場合もありますが、だからといってエルデンリングの神話的解釈をその系譜(ペルシア神話的解釈)のみに認めてしまうのは時期尚早です。

ミケラの符合についてもごく一面的なものであり、エルデンリングの世界やキャラクターには非常に二面性が多いことから、モチーフの探求であれ、その解釈にはまだまだ余地が残されていると感じます。

神話的な世界の起こり(創世)については、その神が暗黒から世界を作ったというものや、暗黒の混沌から神が起こったとするものが多いです。

宗教や神話については、後世のものは先の信仰の影響を大変色濃く受けています。
神であれ、再解釈されたであろう存在も多々見受けられます。

宗教や神話の原型は、まだ文字も言葉もないうちから形成されていました。しかし、そこまで遡るのはなかなか厳しいところがありますので、今回は、個人的に面白そうだと思った要素をピックアップしてみました。

【神話の系譜】

◆シュメール・オリエント神話◆

まずは、今世でよく知られる宗教の原型となったとも言われる、メソポタミアのシュメール・オリエントの神話を少し見てみます。

・創世

“天地(双生児)が生まれ、チグリス・ユーフラテス川を作る。
4つの大神・その他の大神が生まれる。
神の仕事を任せるために、その他の神の中の一人を殺し、その血から人間を生み出す。”

人間は神の血から生み出され、その目的は神への奉仕(神々の世話・仕事の代行)でした。

4神とはアン・エンリル・ウトゥ・エンキで、そのうちエンリルは滅亡の神です。
紀元前文学として「ウルの滅亡哀歌」が知られていますが、ウル王朝はエンリルに滅ぼされました。

#2でも触れましたが、エルデンリングにおいてもメソポタミアの都市国家ウル・ウルクのオマージュであるウル・ウルドの王朝遺跡が存在します。

ちなみに、「ウルの滅亡哀歌」も見てみましたが、神に滅ぼされたという以上の関連性は特に無さそうでした。

・原初の神々と両性具有

エルデンリングにおいて、マリカとラダゴンは両性具有的性質を有しますが、両性具有的性質はオリエントの神ティアマトやクマルビにも見られる特徴です。

また、#1で見たミケラの原型ミトラに繋がるゾロアスター教における原初の神ズルワーンにも両性具有的性質があります。

原初の神々とその子の誕生にまつわる逸話にはこうした両性具有による単為生殖的なお話や、近親相姦がつきものになります。

現代において近親相姦は遺伝的に禁忌であるということで重く禁じられていますし、そのような事が医学的に分かる前からすでにタブー視される行為であったことは明らかなのですが、古くはその神性や同一性を保つために必須でさえありました。

その一端がエルデンリング的神話世界にも見て取れるのだと解しています。

 

◆神々のキャラクター性

オリエントの神々を辿ると、エルデンリングのキャラクターたちの原型を垣間見ることができます。

①ギルガメシュ

まず、半神半人のギルガメシュ。同一ではありませんが、のちのギリシア神話のヘラクレスのモチーフとなったと言われています。

ギルガメシュはウルクに放たれたライオンを抑えた英雄でした。その名の語源も、英雄に由来します。

エルデンリングで英雄・ライオンを抑えたというと、ホーラ・ルーを連想しますね。

紀元前文学である「ギルガメシュ叙事詩」は英雄ギルガメシュが死に至るまでの英雄譚です。

蛮地に追放されて尚、王となった彼にも「ホーラ・ルー叙事詩」なるものが狭間の外にできたかもしれません。

エルデンリングにおいて、ホーラ・ルーはオープニングのムービーやゲーム内で「戦士であり褪せ人」だと明言されています。

「褪せ人」と言われれば、祝福を失った人、つまり「神人・デミゴッド」では無いんだなと思わされてしまいますね。

ギルガメシュは神でありましたが、同時に人であったために「不死」ではありませんでした。(叙事詩でも、最後は死ぬという事実がそれを叙情的たらしめています。)

エルデンリングの神は、その律から死を取り除いているために特殊な方法でなければ殺せませんが、ホーラ・ルーがギルガメシュのような性質を持つとするならば、彼は死という点においては人と同じだったのです。

(英雄的モチーフとして利用されただけで、そこまでの一致があると見るかどうかは意見の分かれるところだと思いますが)

つまり、ホーラ・ルーは「褪せ人」と言われながら、神としての性質も持ち合わせていたのではないでしょうか。

もし、ホーラ・ルーに神の血が流れているのであれば、ホーラ・ルー(狭間の地を追われた戦士)の末裔と示唆されているプレイヤーにも、実は何かしらの神性が含まれているのかもしれません。

②嵐の神と竜の神

同じオリエント神話ですが、時代としてはヒッタイトの神話になります。

ヒッタイト神話では、嵐の神は竜の神と二度戦い、二度ともそれぞれ初めは嵐の神が負けるものの、結果的には嵐の神が逆転するとされています。

竜神イルルヤンカシュは原初の混沌を意味しており、嵐の神の勝利は国土の安定と繁栄を意味しているそうです。

エルデンリングでは竜の神、嵐の神の闘いは、ファルム・アズラの竜王プラキドサクス(もしくはその王)と、リムグレイブのストームヴィルの嵐の王との闘いを指すように思えます。

ここで嵐の鷹・ディーネと、古き王のタリスマンのフレーバーテキストを見てみましょう。

“かつて、ストームヴィルに本当の嵐のあった頃
最後まで古き王に仕えた、猛き鷹の霊体。鳴き声で、共に戦う者の士気を高め、その体に風を纏い、敵を切り裂く”

“時の狭間、嵐の中心に座すという古き王を象ったタリスマン。古き王の都、ファルム・アズラは遙か前からずっとゆっくりと崩壊しているという”

どちらにも「古き王」という言葉が出ていますね。

この「古き王」は言葉は同じですが、それぞれ別の者を指しており、嵐の王・竜の王それぞれの示唆ではないのかなと思っています。

ストームヴィル近辺にファルム・アズラにも似たような遺跡の残骸が多くみられるのは、この古き闘いの名残なのかもしれません。

 

◆ペルシア神話◆

ここは#1で見た以外の符合は特になさそうでしたので、ほぼ割愛になりますが、マズダ教・ミトラ共通・ゾロアスター教・ズルワーン教・マニ教などを含みます。

ひとつ、面白い示唆を含みそうな神がいるので紹介します。

・ウルスラグナ

ミトラの従者であり、ミトラとの約束を破った者にはすさまじい神罰を下し、その者を細かく切り刻むと言われています。
また、英雄であり、勝利を司る神で、羽を持つ者です。

この神は、不敗の女神マレニア(敢えて不敗としました)の原型と言えそうですね。

しかし、相違点も多くあり、ウルスラグナのその羽根は孔雀とその尾羽であること、また、ウルスラグナは様々なものに変身することができ、牛・馬・ラクダ・猪・隼・羊・鹿・少年・鳥・戦士など10の姿をもつ活動的な神として描かれたそうです。

マレニアはその不敗性よりは腐敗の設定の方が重要なキャラクターなので、「不敗のマレニア」については#1であげたことと、このウルスラグナの話とである程度は終着できるかなと思っています。

◆ギリシア神話◆

私たちに最も馴染みの深い神話の一つが、ギリシア神話です。

しかし、ギリシア神話は神々のキャラクターが立ちすぎていて、あまりにも「分かりやすすぎる」せいか、直接的なモデルはあまり居ないように思いました。

系譜としては先のオリエント、ペルシアの流れを汲みます。

エルデンリングの神話との符合は、ギリシア神話の原初にはいくつか見ることができます。

それでは、ギリシア神話の原初の世界を一部抜き出して見てみましょう。

“全ては混沌から始まった。

大地ガイアが生まれ、池の底タルタロスが生まれ、愛を司るエロスが生まれ、不可視の冥界エレボス、暗黒と夜を表すニュクスが生まれた

ニュクス(夜)からは眠りのヒュプノス、夢を司るオネイロスが生まれ、ニュクス(夜)とエレボス(死)が結ばれてエーテルとヘメラ(昼)が生まれた。

ガイアはウラノス(天空)を生み、さらにガイアとウラノスが子を成した。

ガイアとウラノスからは、火山を司る単眼の巨人キュプロクス、百本の腕を持つヘカトンキュロスなどの巨人族が生まれた。

ウラノスは特に異形だったヘカトンキュロス・キュプロクスを忌み嫌い、冥府タルタロスに放逐した。”

エルデンリングと近い要素としては、単眼の火の巨人の話と、神が生んだ異形の忌み子たちを地下深くに封印したという部分ですね。

巨人戦争に関してはこのギリシア神話をベースにしていると思われます。

古い神であるタイタン族と、若く力のある神ゼウスとの戦いは、そのまま巨人族とマリカ、ホーラ・ルー軍との戦いと解することができます。

(ちなみに、「巨人の火の釜」は、トーマス・コールの「タイタンのゴブレット」という油彩画から連想されたのではないかと個人的には考えています。似てると思う……!)

キュプロクスは単眼の盾に記載されている、”女王マリカが討ち取ったとされる、かつて巨人たちが祀った悪神” のベースですね。

仮に、キュプロクスと対を成す巨人、百本の腕を持つヘカトンキュロスのような存在も居たと考えると、そして、この巨人戦争にかつての黄金の一族であったゴドフロアが参加していて、その力にこっそりと魅せられたのだとすると。あくまでも妄想ですが、それは「接ぎ木」の始まりになったのではないかなと思ったりもしました。

また、キュプロクスとは時代的にも関係がありませんが、ギリシア神話でプロメテウスという人物は神から火を盗んだとされています。
(神から火を盗むというのは人間の罪として、宗教上のテーマとしてよく取り扱われます)

エルデンリング内にも「火を盗んだアダン」という封牢のボスが出てきます。

以下はアダン撃破で手に入る 悪神の火 のテキストです。

“悪神が宿るとされる、燃え盛る火球を放つ。
それは、アダンが盗み出した 監視者の長、アーガンティの秘匿である。
悪神は、火の巨人の内に、今も隠れている”

火は信仰の対象であり、また呪術的意味合いも持ちます。
火の呪術と、エルデンリングの世界とを見比べてみるのも面白そうなので、その辺りはまた機会があれば見てみようと思います。

最後に、初めのシュメール・オリエント神話に少し戻って、あるキャラクターへの妄想で締めくくろうと思います。

・夜と昼・月と太陽について

月神ナンナは太陽神ウトゥを産みました。
夜から昼が生まれたという伝承もあります。

太陽という概念は月や夜よりも後に来るものでした。

また、現在では異端視されがちなのですが、原初やそれに近い宗教においては、黒は崇拝の対象でした。

後世の一部の宗教において、他の教義を認めないという考え方から、意に沿わない崇拝の対象は即ち異端とされたのです。

エルデンリングにおいて、文明的に黄金の時代よりも前であるノクステラが黒い月を崇拝していたことからも、この辺りの概念はほぼ同じなのではないかと考えています。

黒い月信仰はタリスマン、「ノクステラの月」「メモリ・ストーン」のフレーバーテキストに見ることができます。

“永遠の都、ノクステラの秘宝。
それは、彼らが失くした黒い月を模している、
ノクステラの月は、無数の星を従えていた”

“黒く薄い謎めいた石
それを加工した、魔術師たちの秘宝
それは、かつて永遠の都が見上げた黒い月の欠片であるという”

私は当初、エルデンリングにおける「暗黒」とは星の子たちが流入してくるゲートのようなものだと思っていました。

しかし、メモリ・ストーンのテキストにあるように、それは確かに物質であるようです。
とするなら、ノクステラの黒い月はレナラの満月・ラニの暗月に次ぐ、三つ目の月であったのでしょうか。

月を見出し、その力とすることはカーリアの女王たるものの特権であり、宿命でありました。
幼いレナラは、満月と出会い、ラニはレナラに連れられて、自らの象徴となる暗月に出会いました。

もちろん、ラニは地下世界と縁が深いので、ノクステラの黒い月を暗月と同一視する事もできるかもしれません。
しかし、ラニやその周りの者の口からはノクローンの話のみで、ノクステラの事は出てきません。
そのため、ノクステラの黒い月はラニの暗月とは別のものだと考えています。

黒い月を、ラニの暗月とは別の三つ目の月と仮定したとして、その黒い月は一体誰が探求し、辿り着くものだったのでしょうか。

カーリア王家の運命は、その星と共に動き出します。
軍師イジーは、ラニの事を「カーリア王家正統の王女」と呼びました。

穿った見方をすれば、正統ではない誰かがいるかのようにも聞こえますね。

ある人物は、カーリアに仇なす存在・カーリアの禍と呼ばれ、異端と呼ばれました。

彼女の運命も、本人が自覚していた通り、ラダーンの押し留めていた隕石の落下と共にまた動き出しました。

彼女が探究したものは星の琥珀とその生命の源流であり、月という示唆は一切出てきません。
しかし、元は幼いレナラも、星を見上げて歩くうちに、彼女を象徴する満月に出会いました。

星を探究するうちに、意図せずその象徴たる月に出会う。それは、カーリアの王女たる者の宿命なのかもしれません。

あくまでも私の妄想に過ぎないのですが、
セレンとレナラは姉妹だったのではないでしょうか。

レナラはあの身体のサイズと、星見の祖が山嶺にあったということ、また、幼い頃から巨人達を盟友としていたという事から、父が母のどちらかがが巨人、もしくは巨人族と関連があったのだろうと考えられます。

セレンは通常サイズのため、異母・又は異父姉妹の可能性があります。
魔術師トープスからも、可憐な才媛であったと、その容姿への言及がありました。

(ただし、セレンは身体を取り替えることが出来るため、元はレナラと同じサイズだったが、通常サイズの体に乗り換えたと見ることもできます。)

エルデンリングの世界においては、身体の大きさは大きければ優遇されるような描写があるため、もし姉妹で大きさが違っていたのだとしたら、一切の余地はなく、レナラが次期女王とされたのかもしれません。

セレンはカーリアに仇なす存在であり、あれだけ恐るべき厄災だと言われており、本人もカーリアを廃すると言っているにも関わらず、ラニに対して言及するときの口調には何の禍根も感じさせませんでしたし、またレナラと対峙した時にも彼女に酷い事は一切しませんでした。

個人的にここは、セレンイベントをこなした時にとても違和感があったので、何かあるのかなとずっと思っていました。

断っておくと、セレンは当代のカーリアを廃し、源流魔術を復興すると、そのためには手段は問わないと言っており、本人にカーリアの女王になりたい、という意思は一切見られませんでした。

しかし、あのまま源流魔術の復興を成し遂げ、黒い月を見出し、「セレンの黒い月」なる魔法を手にしていたとすれば、彼女は意図せず正統なカーリアの女王として、その名を残したのかもしれません。知らずのうちに月に導かれ、最後に魔術師球になってしまったというのはなんとも皮肉な事ですね。