教会の一角、衛兵たちの集う詰所の中。
壁に備えられた武器や盾、甲冑が、トーチの灯りに照らし出されている。
衛兵はテーブルを取り囲み、互いに装備の点検をしながら言葉を交わしていた。
「——おい、最近何かいい気晴らしは無いか?」
「ああ。またあれが手に入ったぞ」
甲冑に通した身体の位置を確かめ、ひとりの衛兵が言う。男が身を揺するたび、その継ぎ目が耳障りな音を立てた。
「今度は誰に使う? 早くやろうぜ」
「おい、あれは貴重なんだ。無駄打ちするには勿体ねえ代物だぞ」
「吸い込めば天国、打てば奈落の底へ一直線、か。どれだけ真面目な堅物でも、堕ちたら二度と這い上がれねえ。頭がイカレるのが先か——身体がイカレるのが先か」
「ここは遊ぶにはうってつけだよな。人ひとり消えたって、誰も疑問に思わねえんだ」
長槍に手を掛けた衛兵が、押し殺したような笑みを溢す。
「特に見習いや、新人。大教会での厳しい暮らしに嫌気が差して、田舎に逃げ帰ったってオチがつくさ」
堪えきれずに放たれた複数の笑い声が、詰所に響き渡った。
次の瞬間、聞こえてきたのは不機嫌そうながなり声だ。
「——お前ら、いつまで油を売っているつもりだ? さっさと持ち場につけ」
その声に、衛兵たちの動きがぴたりと止まる。怒声と共に現れたのは、黒いケープを被り、鞭を持った大柄な男。
纏うマントの裾には黒地に禍々しい紋様の、赤い刺繍が施されている。
この地に於いて、赤は異端者の罪を象徴する色として知られていた。
男の纏う黒衣は宗教的異端者を断罪するための、審問官の装束だった。
ケープに覆われた顔は暗がりに隠れてはいたが、集う衛兵たちの体躯にも、この男が引けを取らぬ事は明らかだ。逆らって、ただで済む相手ではないだろう。
更に、男の手からは大きな鞭が覗いていた。鞭に絡みつく棘も、その恐ろしげな印象に拍車を掛けている。
あの鞭で身体を打たれればどうなるのか。それは火を見るよりも明らかだった。
衛兵たちが不安そうに目を泳がせる中、一人が男に歩み寄り、声を掛ける。
「すみませんね、旦那。これでお目こぼししてもらえませんか」
数枚の通貨が、黒衣の男に手渡された。暗がりの中から射抜くような目が向けられる。
「余計な事はするんじゃねえぞ。俺の仕事を増やすな」
黒衣の男はそれをしまい込むと顔を上げ、ぐるりと辺りを睨みつけた。それが出て行けという合図と知れる頃には、衛兵たちは忽然と姿を消していた。
†
「はぁ……」
手慣れた解剖を終えたヴァレーは器具の後始末を行いながらも、一日中ため息を繰り返していた。
気はそぞろで、実習の内容は何も手に付いていない。
それは昨夜、同室の彼に対して挑発するように口付けを返してしまった自らの行為が、幾度も繰り返し記憶の中に再生されてしまっていたからだった。
軽く触れ合っただけの場所が——始終気にしてしまった所為か、ヒリヒリと痛む。
正直、唇を重ね合わせる事が親愛の証なのだとして。それが友情の延長線上に現出する以上のものである事は、やや世間ずれしている覚えのあるヴァレーとて理解していた。
ほんの出来心からあのような意趣返しをしたものの、その後の事など、何も知るわけもない。連日の解剖で人体の内部について知らないところは何処にもないというのに——。
器具を運ぶための木箱を下ろしながら、ヴァレーは額に滲む汗を拭った。
「まだ、あと三往復……」
少しでも思考に空白ができると、つい余計な事を考えてしまう。体を動かし、込み上げる羞恥に結び付いた記憶を振り払おうと、後片付けに精を出した。
暫くは作業に没頭していて気付かなかったが、ふと、実習室の入り口に人の気配を感じて振り向く。動く影に目を凝らすと、見知りの衛兵たちが部屋の中を覗き込んでいるのが見えた。
——この後、部屋を使う予定は無かったはずなのだが。
ヴァレーは記憶を辿りつつ、男たちへと声を掛ける。
「どうかされましたか? 実習はもう済みました。片付けも、あと少しで終わりますから。点検でしたら、その後で……」
言いかけて、ヴァレーは思った。衛兵である彼らの方が、余程力があるだろう。
それに、見える人影はちょうど三つ。木箱を運んでもらえれば、直ちに後片付けの用が済む。
「あの——よろしければ、道具の運搬を手助けしていただけませんか?」
その問いかけに、木戸の向こうの人影は言葉を返した。
「ああ、もちろんだ。ええと、医師見習いの……」
「まだ名乗っておりませんでしたね。ヴァレーと申します」
ヴァレーは胸に手を当てると、軽く頭を下げた。
「ヴァレーちゃん、だとよ。名前も可愛いな」
三つの人影が大きな肩をゆすり、笑い声を響かせた。だが、その笑い声はいつもと異なり、どうにも快く思われるものではなかった。
——その時に、ようやくヴァレーは忠告を思い出した。『ここの衛兵たちは無法者の集まり。恐喝や暴行紛いのことを繰り返す連中なのだ』と。
男たちはヴァレーの許可を得るや部屋に押し入ると、後ろ手に閂をかけた。そして下品な笑みを貼り付けたまま、扉を背にして威圧的に近づいていく。
「あ……やはり、あと少しですから、一人で大丈夫です……」
ヴァレーは男たちの歩みに合わせてじりじりと後退った。だが、実習室の出入り口はひとつ。逃げ場は無く、相手は複数だ。
怯えを気取られまいと言い放った言葉も虚しく、男の一人がヴァレーへと顔を近づける。
「つれねえな。手伝うからには、何か見返りがあるんだよな?」
「いえ、ですからもう、結構だと——」
そう言いかけたヴァレーの肩を背後から、もう一人の男が押さえ込む。
「う……ッ!?」
肩を掴まれ、数人の男に囲まれては身動きが取れない。不穏な空気が、ひりひりと肌を刺していた。
「……あ、生憎、今は何も持ち合わせていなくて……」
見返りというからには、やはり恐喝が目的だったのだろうか。
だが、次に放たれた男の言葉は、ヴァレーの想像に反していた。
「物取りじゃねえから心配すんな。たっぷり可愛がってやろうってだけだよ。おい、お前。入口見とけ」
「ああ? 大丈夫だよ。予定じゃ、ここは明日まで誰も来ねえ」
「この場所が一番都合が良いからな。何せ、全部が揃ってる」
そう語る男の目は先程まで遺体が載せられていた、拘束具の付いた寝台を舐めるように眺めている。
「……一体、何を……?」
ヴァレーは小刻みに震える身体で、男たちの言葉を反芻した。
誰も来ない、全てが揃っている——。
今から何が行われようとしているのだろうか。恐喝——暴行。同室の彼の忠告と、考え得る限りの最悪な想像が頭をよぎる。立ち尽くす身体に浮かぶ冷や汗が、じとりと肌を濡らす。
「さっさと始めようぜ。時間がもったいねえ」
「——ん、ぐっ……!」
男の一人が、ヴァレーの手を引いて寝台へと引き立てた。そのはずみでバランスを崩した身体が木箱にぶつかる。
途端、器具が崩れ落ちてガラガラと耳障りな音を立てた。
「やめてください……! 本当に、何もありませんから……」
ヴァレーは手足をバタつかせ、必死に男の手から逃れようと試みた。だが、屈強な衛兵たちに三人がかりで押さえ込まれては抵抗など出来る筈もない。
「何もねえだと? 俺たちにとってはあり過ぎて想像だけで楽しめるぐらいだよ。ま、そんな勿体無い事はしねえがな。おい、お前ら腕押さえろ」
身を捩り、男たちを振り解こうとしたがなす術もなく、冷たい寝台の上へと無理矢理に身体が押さえ付けられる。
男たちはヴァレーの腕を露出させると、遺体を固定するためのベルトできつく縛り上げた。
更に、もう一人が袋から小瓶と太い金属針の注射器を取り出し、小瓶の中の薬液を、シリンジにゆっくりと吸い出していく。
「泣き叫ぶのを無理やりヤるのも良いもんだが、それじゃあ口封じにならねえからな。この薬があれば、お前も俺たち同様、充分に楽しめるだろうよ」
言い終わらないうちに、男は寝台の上でもがく腕を引き伸ばすと、その中心に躊躇いなく注射針を突き刺した。
「……ひッ、な……ぁ、それ……ッ、何の薬、を……!?」
液体が男の指で押し込まれ、見る間に体の中へと流れ込む。ヴァレーは横たえられた身体、青ざめた顔で悲痛に叫んだ。
「チッ、うるせえな。すぐに分かるさ。残りの目的もな」
耳元の声に、ぞくりと身が震える。
——残りの目的とは? 今から一体、何が行われるというのだろう。先ほどの薬が強力な麻酔だとしたら、このまま臓器でも抜かれてしまうのだろうか。
自らが刃物を手に、この場所で日々繰り返した血腥い行為から想起される恐ろしい考えが頭をよぎった。
遺体は元より、新鮮な臓器は異端の呪法の贄として、闇の世界では法外な価格で取引されている。医師見習いとして遺体を取り扱う前に、それらの闇取引には決して手を染めぬようにと幾度も教えられ、誓書に署名をさせられた。もしや、この男たちはそうした闇取引が目的なのではないだろうか? 自分が身寄りもなく、金目のものも奪えないとなれば——。
駆け巡る恐ろしい考えに心臓は早鐘を打ち、身体は嫌な汗に濡れていった。
その最中。突如として、明確な異変が身体を襲う。
「……ん、う……ッ」
薬を打たれた場所から脈打つように広がるじくじくとした疼き。
——熱い。
身体機能が過剰に亢進しているような感覚、そして息苦しさが、ヴァレーの全身を駆け巡っていく。
「……は、んぁ……、っ……!?」
視界は霞み、頭は酩酊にも似て正常な思考を意識下から引き離そうとするかのように、ぐらりと揺らいでいた。その奥から身体の感覚だけが酷く鋭敏に、はっきりと浮かび上がる。
「始まったか? 今からお楽しみにしてやるからな。よし、脱がせろ」
衛兵の声が、先ほどよりも現実味をなくして遠くに聞こえた。男たちの手が、身に纏う衣服を乱雑に引き剥がす。抵抗も敵わず、熱を上げていく肌が冷ややかな地下室に晒け出されると共に、ヴァレーは僅かな解放感を覚えていた。
「ん、うっ……はぁ……ッ」
男たちの掌がぞろぞろと身体を這い回る。その指先が、触れるところ全てが、肌の表面をひりつかせるような熱さと痺れを殊更に煽り立てていく。
「もう抵抗できねえな。効き目抜群だろ? 身体の感覚はそのうちに戻るから安心しな。お前が見習いで来た時から、こちとらずっと目をつけてたんだよ。後ろ盾のないお前に何したって、誰も困りやしねえからな」
「っ、は……な……に……?」
「その思わせぶりで何も起きないと思ってたのか? こんな場所で、いかがわしい勧誘でもしてるんじゃねえかって専らの噂だったんだよ。身体を寄せて手を取りながら説話だなんて、田舎の老いぼれた修道女じゃあるまいし。お前が相手してた爺さんだって、物陰でいつもナニをしてたか、教えてやろうか?」
「——おい、準備できたぞ。ここなら湯水も使い放題だ」
「ほらよ、さっさと行ってこい」
笑い声を響かせる男たちの中、ヴァレーは先ほどの話もうまく飲み込めずにいた。思わせぶり? いかがわしい勧誘? 用意と言われた言葉が何を指すのかも分からない。だが、それが事態を好転させるような行為でない事だけは確かなのだろう。
寝台に固定されていたベルトが外され、だらりと力を失った腕が重力の言いなりになる。高熱に浮かされたままの身体は、男に抱かれて隣の部屋へと運ばれていく。四肢の自由は効かず、動くこともままならない。
運ばれていく途中、歪む視界の端に映ったのは、並べられたガラス製の器具やチューブの類。その光景に、ヴァレーは息を呑んだ。
それらがどのような目的のものであるのかを、医師見習いである彼はよく知っていたからだ。なぜそれらが今、ここに用意されているのか。それが行われる目的、そしてその先にある事を考えると——ヴァレーは今にも、気を失ってしまいそうだった。
「……ひぅッ、んっ……は……ッ……ぁ……」
「ほら、力抜けよ。たっぷり飲み込ませてやるからな」
視界の端に見たガラス製の器具は、やはりヴァレーの知る目的の通り、肛門の中にぐりぐりと捩じ込まれた。男は器具を使って繰り返し、ヴァレーの腸内に大量の湯を流し込んでいく。
「う、ぐぅっ……も、やめ……ッ……」
ぐるぐる、ごぼごぼと腹の中を遡上していく湯水は腸壁を内側から拡張し、限界まで押し広げた。当初に感じた生温かさは徐々に鈍重な痛みへと変わっていく。身体は危険を感じるや、すぐに排泄の命令を下し始めた。だが、器具で蓋をされたその場所は、一向に解放を与えられない。ヴァレーは羞恥に塗れ、苦悶の表情を浮かべながらも、どうにかその感覚を耐えようとした。だが長くは続かず。身体が限界を迎え始めると苦痛に身を捩り、遂には悲痛に喘ぎながら、男に向けて必死に解放を訴えた。
声は枯れ、顔中が体液でぐしゃぐしゃになる頃に——ようやく中を晒け出すことを許される。男は加虐的な笑いを響かせると、ヴァレーの下腹を勢いよく蹴り上げた。
「ひぐ……ッ! うえ……ぐぇ……ッ、う、ぶ……ッ」
「はっ、これで終わりだと思ったか? まだまだだよ。身体の隅々まで味わい尽くせるようにきっちり仕上げてやる」
間髪を入れずに再開された苦しみと、身体の中を押し広げ、再び下腹を満たしていく液体。朦朧とする意識と、せん妄にも似た感覚の中で——幾度も幾度も、このグロテスクな行為が繰り返されていった。
平素であれば嫌悪の激情と、訪れる痛みだけに身を委ねる事も出来たのだろう。だが、ヴァレーが感じていたのは、痛みだけではなかった。いや、痛みよりももっと、猥雑な感覚が、身体を支配し始めていた。それは先程打たれてしまった薬の所為なのだろうか。うねるように身体を支配していた熱はいつしか下半身へと流れ込み、しきりに何かを訴えかけている。
湯水を堰き止めていた器具が男の手でぐぽんと引き抜かれ、突き抜けるような激しい解放が訪れる度に——背徳的な感覚が全身を襲い、熱く悶えさせた。その感覚を拾ってはだめだと、理性は警鐘を鳴らしていた。だが、感度は増して疼きは高まり、今や排泄腔への刺激全てが痛みではなく、淡い快楽へと差し替えられてしまっていた。
男はヴァレーの太腿を持ち上げて背後から抱え上げると、肛門に嵌められている器具をまた勢いよく引き抜く。
「……ひゃあ゙……っ、やあ、ぁ……っ、ん、ぐ、ぅ゙〜~〜〜っ……!!」
自由を奪われた身体に、この行為の中断など叶う筈もない。
ヴァレーは目を見開き、情けない喘ぎを喉奥から漏らしながら、がくがくと全身を震わせて透明な湯水を吐き出し続けた。それと同時に——晒け出された彼の下半身、その中心は触れられもしないまま、ゆるやかに勃ち上がってしまっていた。
身体が受け入れ続けた性感に気を飛ばし、小刻みに痙攣しているヴァレーを見た男が嘲った。
「おいおい、勃ってんぞ。もうケツで感じてんのか? 良かったな、ここからが本番だからよ。二度と元の身体には戻れなくしてやるよ」
「……ん、ふ、ぁ……?」
「——おい、遅えぞ。用意が済んだんなら、さっさとこっちに連れてこい」
「ああ、分かったよ。もう充分だぜ」
男たちの集う部屋に戻されたヴァレーは寝台の上、うつ伏せの状態にさせられ、それぞれに手足を押さえつけられた。
「おら、ケツこっち向けろッ!」
目の前の双丘に向け、一人の衛兵が勢いよく平手を打つ。
「……痛ッ……!」
先ほどの器具の拡張と繰り返しに排出された湯水の刺激により、双丘の中心——その窄まりは、淫靡に赤く色づいていた。
男は尻たぶを鷲掴んで左右にぐいと押し広げると、品定めをするかのように言う。
「おら、見ろよ。全く、綺麗なもんだろ? まだ全然使い込まれてねえ」
「まあな。薬の弛緩作用で多少ユルくはなるだろうが、ぶっ壊れるよりはマシさ。今日一日で見違えるようになるぜ」
「おい、聞こえてるか? ちゃーんと力抜いとけよ。こんなとこ無理矢理ぶち抜いたらどうなるか、医者見習いなら分かってんだろ。今更抵抗したって遅えからな。俺たちが満足するまでは終わらねえ。なら、早く馴染んだ方が身のためだ。お利口なら、それぐらい分かるよな?」
男の手が、またぴしゃりと平手を打つ。
じんじんと響く痛みは、それが薄れるとともに奇妙な感覚を残していつた。先ほどからもうずっと、身体の奥から背を伝って全身に広がるむず痒いような疼きが止められない。その感覚を逃そうと、無意識のうちに揺れてしまう腰。ふうふうと漏れる、荒い息。
「っ、ぁ……ッ……」
ヴァレーは自らの勃ちあがってしまった場所が焦れる感覚に耐えかね、内腿を擦り合わせた。頭がふわふわする。身体が熱い、肌がひりつく。下半身が、そして先ほどから圧迫と解放のうちにいたぶられ続けた場所が、どうしようもなく甘く疼いていた。
「おい、油貸せ。解すぞ」
声を掛けられた男は生唾を飲み込みながら、熱に浮かされて身悶えているヴァレーに見入っている。
「……すげえ効き目だな。ヤってくれって言ってるようなもんじゃねえか」
「なんだ、お前初めてか? こんなもん、まだ序の口だよ」
ポンと投げられた軟膏を、男の指が掬い取る。
「おら、足開いとけ」
声を合図にがばりと開かれ、男の目の前に向けられた秘所が、惜しげもなく露わにされる。そこはぴっちりと閉じたまま、ひくひくと怯えるように震えていた。男はその周辺をゆっくりとなぞり上げると、油のぬめりを利用して自らの指を埋め込んでいく。
「……は、ッ……」
疼きの高まる場所に新たな刺激が与えられた所為だろう。入り口は反射的に締まり、柔らかな腸壁が男の指にきゅんと吸い付いた。
「……ん、くうぅっ……!」
ヴァレーは思わず、体をのけ反らせて声を上げた。男の指が、性感を拾い始めてしまった場所につぷつぷと出入りする。そんなところを弄られて、僅かでも感じてしまっている自らの身体が、到底信じられなかった。それを認識した途端、羞恥と快感が同時に訪れて頭にカッと血が昇る。身体は言うことを聞かずとも、まだ理性は充分に残っていた。
なけなしのそれが、ありあまる快感を拒否しようと——腰を引き、どうにかその行為から逃れようとする。だが、男は動きを見咎めると腰に指を食い込ませ、容赦なく引き寄せた。
「おいおい、どこ行こうってんだよ? お前の中、熱々でやわらけえぞ。本当に初めてなんだろうな?」
男は興奮冷めやらぬ様子でねちっこく指の抽送を繰り返すと、さらに本数を増やし始めた。
「感じ始めてるくせによ。さっさと受け入れちまえ」
「ん……ゔぅ……っ……あ゙、あ……ッ」
鋭敏になりすぎた身体では、腸壁をまさぐる指の場所や本数もはっきりと感じ取れてしまう。ふわふわと甘い疼きに蕩けていく感覚神経はゆっくりと——だが確実に、快楽を手繰り寄せて脳の奥を溶かし始めていた。訪れる快楽の波にビクビクと反応する身体は男たちを喜ばせ、さらに卑猥な言葉を投げかけさせる。
「ここ弄られるのが良くなってきたんだろ? 指の先いやらしく締め付けやがって」
男の指が腸壁を激しく嬲り、掻き回す。だが、ヴァレーにとっても刺激と疼きの頂点は脳髄が蕩けるように気持ちいいという感覚を強く伴うものだった。
次第に男の指が出入りする更に奥——まだ触られていない場所も、なぞり上げられ淫らに混ぜ合わされるのを待ち侘びてしまう意識が、ヴァレーの身体を殊更に焦らしていく。
「あ……ふぁ……ぁ……っ、ん……」
「もう、トロットロだな。そのうちこれが欲しくて堪らなくなってくるぜ。よく見とけよ」
男は指を引き抜くと、ヴァレーの面前に男性器を見せつけた。それを見たヴァレーは、ひっと声を上げて目元を歪める。衛兵の昂ぶりは太く脈打って上を向き、到底、尻の中に入るなどとは思えない代物だった。
男の指を受け入れ、くちゅくちゅと小さな水音を立てながら嬲られていた場所は、今や甘い官能に絆されつつあった。だが、改めて男の欲望そのものの暴力的なまでの威厳を見せつけられると、おぞましさに身体がびくりと強張る。
「……い、や……」
ヴァレーは青ざめ、色を失った瞳で力なく頭を振った。
「ああ? 嫌じゃねえだろ! 奥の奥まで調教して逆らえなくしてやるからな!!」
「あ、……ひ、あぁあ゙……ッ……!!」
その言葉に男の加虐のスイッチが入ったのか、出し入れされていた指が腸壁を押し上げ、卑猥な音を立てては激しく掻き回された。ヴァレーは突如訪れた、電流の突き抜けるような、暴力的なまでの快楽に翻弄された。腰回りに留められていた熱いうねりが背を伝い、脳髄にとめどなく流れ込み始めたかのようだ。あまりにも強烈な刺激に身体は幾度も絶頂を迎え、その度に見開いた瞳からは、涙が零れて頬を伝った。
抵抗の言葉は頭の片隅に追いやられ、強すぎる刺激に留めておくことの出来ない喘ぎが堪えきれず溢れ出していく。
「ゔ、あ゙ぁっ……! は、あ……! い、あ゙ぁぁぁあッッ……!」
更には——ある一点を執拗に押し上げられる度に、壊れてしまいそうなほどの鮮烈な性感が身体を襲っていた。快楽の全てが一点に集められ、身体の奥底から焼き溶かされるような甘い疼きが繰り返し、頭の奥を痺れさせる。上擦る声が喉奥から溢れ、腰が動くのを止められない。
「……ん、ぉ゙っ、お゙っ……う、ぐ……ッ」
「あ? ここが気持ちいいんだな?」
「〜〜〜ん゙ぅ、あ゙っ、ん゙ぉ゙っ?! ひッ……、あ゙ぁ〜〜〜っ!!」
「指でこうしてるだけでこんなに乱れやがってよ。どの口で嫌とか抜かしてやがったんだ?」
男たちの声は愉悦に歪みきっていた。ビクビクと断続的に痙攣し続けているヴァレーを動けぬように押さえ込むと、何度も執拗にその場所を虐め抜く。
「んっ、ん゙ん~~~っ、はぁっ、や、ぁ……、うあ゙ぁ〜〜〜っ!!」
ほとんど絶叫にも似た悲鳴と、見開かれ、焦点の定まらない瞳でヴァレーは喘ぎ続けていた。それが快楽であるのか、痛みであるのか、もはや声や動きからは判別ができない。それは錯乱し、正常な意識を手放しているかのように見えた。だが、しっかりと勃ち上がっていた彼の中心、その先端から押し出されているとろみのある体液が、与えられている苛烈な刺激が、性的な快楽によるものである事実を如実に示していた。
——身体の奥底から、感じたことのない欲の奔流がずるずると引きずり出されていく。快楽に呑み込まれては戻れなくなりそうな恐ろしさが、頭の片隅に留められていた。このまま理性を手放してしまえば、どうなってしまうのだろうか。
「よし、しばらく休憩だ。これでしっかり広げておいてやるよ」
「は……あ、ふ、ぅ……ッ……?」
不随意のうちに痙攣し続けていた身体はようやく解放された。だが、それと同時に冷たい何かが尻に押し込まれ、ぬるりと粘液を纏って直腸を押し広げる。
それが何であるのか、今のヴァレーには、問いただすほどの力も残されていなかった。今はただ、訪れた解放と痙攣を繰り返し続けた身体が求めている休息に、僅かでも意識を委ねられれば良かった。
荒く、浅い呼吸が小刻みに繰り返される。朦朧とする意識と視界の端で——男たちが、下半身を露わにするのが見えた。そして、そう体を休める間もなく。横たえられていた身体、その太腿が再び持ち上げられ、散々に嬲られていた場所が再び開かれた。
「もうトロットロに仕上がってるだろうな。先ずは一発目、俺が優しくしてやるよ」
「チッ、昨日の賭けで決めたとはいえ、ずりいよな」
「あーあ。俺もヴァレーちゃんの初めて、貰いたかったのによ」
そう言うと、二人はヴァレーの身体をがっちりと押さえつけた。残る一人は腰を掴み、広げた脚の前へと陣取る。
「ほらよ、ここまで入るぞ? さっきの指なんかとは太さも長さも、ケタ違いだろ」
「……いや……ぁ……」
か細い声を振り絞るヴァレーにはお構いなしに、男の陰茎が臍の辺りに数度叩きつけられた。
尻の中心は、先ほど埋められた器具によって未だ塞がれている。それを浅いところで抜き差しするよう、緩みかけているそれを幾度も繰り返しに弄ぶ。
「ん……は、ぁ……ッ」
陰湿な焦らしに、ヴァレーの頭の奥がまた痺れていく。どうしようもなく惚け始めた意識の中、突然それが、ぐぽんと勢いよく引き抜かれた。
「ひ……うぁ、っ……!!」
「ああ。良い眺めになってるじゃねえか。こんなとこ、真っ赤に口開けて誘いやがってよ。おい、手どけろ。その顔見たままで犯してやるよ」
「……ん、あっ……! 何……を……もう、やめてください……! 誰か、誰か助け……!!」
「無駄だな。どれだけ叫んでも誰も来ねえよ。分かったら大人しくケツにぶち込まれて、俺たちの処理穴になりやがれ!!」
「ひ……ッ、やっ、そんな、そこ、あ、入らな……ッ、うそ……、やめ、あぁ゙、ッ、ゔ……や、あ゙ぁぁ゙ぁぁあ゙ッツ!!」
言葉だけの抵抗は虚しく、衛兵の巨竿がふやかされた尻穴にぐりぐりと押し当てられ、埋め込まれていく。
男の暴力的な性器は、先ほどまでの指などとは太さも熱さも、何もかもが違っていた。熱い質量の肉圧は肛腔内部の粘膜を擦り上げ、腸壁内を引き攣らせ——薬に侵された身体が無意識のうちに待ち焦がれていた疼き全てを爆ぜるように弾けさせていく。腸壁全てで性感を獲得させられる鮮烈な体感に、ヴァレーは目の前が白く飛び抜けるような激しい目眩を覚えていた。体内を貫く悦楽——それは指などでは到底至らない背徳の刺激だった。
「……や……あッ……ん……う……」
自らに行われている行為がどのような意味を持つものであるのか、性愛に無垢であったヴァレーにも、今やはっきりと分かっていた。男たちは自分を犯す目的でやってきたのだ。そして、まんまと薬を打たれ、身体の自由を奪われ、彼らの慰みものにされてしまっている。卑猥な感覚に堕とされながら、ヴァレーは自らの体内に出入りを繰り返している男を漫然と見ていた。
彼にその意図はなくとも、快楽に蕩けてしまった顔が、男の情慾を殊更に煽り立てる事は明らかだった。男はその顔を見るやひときわ大きく息を吐くと——余裕をなくしたようにヴァレーの身体を貪った。
——肌をぶつける音、男の唸り声、寝台の軋み。
直腸内を激しく抉り込まれ、身体の中を出入りする衛兵たちの欲望だけが全てだった。脳の奥はもうとっくに、この卑猥な感覚に溺れてしまっていた。理性は未だ嫌悪に身悶えているというのに、快楽の炎に焼け爛れた身体は不随意の内に男を求め、淫らに腰を揺らしてしまう。
「ぁ……はぁ……ッ、ん……っ……」
「はぁ……根元までもう余裕だな。見てみろ、こんなに柔らかくなってよ。動かさなくてもどんどん飲み込んでやがる」
「こっち使ってもいいか? もう我慢できねえよ」
「無駄打ちするなって、まあ、弾切れになるまで使い放題だがな」
もう一人の衛兵が、仰向けにのけ反るヴァレーの口へと、無理矢理に陰茎を押し込んだ。
「ん……! うぐっ……、あ、ぐぅっ……!」
「うぉ……ッ! 喉の奥あったけえ……ッ!」
「これから、もっと凄い光景を見せてやるんだからな。覚悟しろよ」
その言葉を合図に、男の腰の動きがさらに深く、大きくなる。
男が激しい揺さぶりをかける度に、別の男に塞がれた喉奥が苦しそうに喘いだ。
直腸内を男性器に拡張されながら、体液に塗れた粘膜が擦れ合う。
その場所は今や男を喜ばせるための場所。慰みものにされるためだけに使い込まれていた。
「はぁ……ッ、薬じゃねえと、流石に初めてでここまではいかねえからな。中、うまく解れてきたぞ」
その言葉に、ヴァレーの口内を犯していた男が身を引く。
「うぇ……げほッ、が、は……ッ……」
「じゃあそろそろ仕上げといこうじゃねえか。ここぶち抜いてイかせてやるよ」
男の手が、ヴァレーの下腹を抑え込む。
「ん……あ゙、うッ……も……何……ぁ、入らな……ッ……!!」
喉を解放されたヴァレーは、身体を突き抜けるようなぞわりとした異変を感じて叫んだ。捻じ込まれた男の竿の先端は、明らかに彼の内臓の限界を押し上げつつあった。その突き上げによって、ヴァレーは最奥に、何か行き止まりのようなものがあると感じていた。
解剖の記憶では、腸内は滑らかな空洞であると認識していたはずなのに。
その終端を、ごん、ごんと幾度もノックされる度に、全身に薄ら寒いような、先程までとは違う感覚が、何らかの警鐘を鳴らしていた。これ以上は危険だ、と。
だが、薬と快楽に溺れてしまった身体はお構いなしに腰を揺らし、男を更に奥深く誘おうと媚び始めていた。奥を突かれる度に、弾けるような官能が全身に広がるのを抑え切れない。
「奥、感じて来たんだろ。足先が小刻みに震えてるぞ。分かりやすい身体だな? もうこんなところまで犯されてねだってやがる。出して欲しいって吸い付いて来てるぞ」
激しい行為に抵抗は及ばず、揺さぶられ、ぼやけた視界に男が映る。自らの最奥をこじ開け、欲を放とうとする身体を受け入れて、ヴァレーの頭は愉悦に堕していた。
「……んぅ、あ、んん……ッ、はぁ……いや、そ、こ、は、だめ……で……!」
「嫌がりながらぐいぐい腰振ってんじゃねえか! おら、根元までしっかり咥えろ!」
男はヴァレーの身体を、骨が軋むほどに強く抱き寄せた。はち切れんばかりに怒張し、滾る竿が最奥の限界へと到達すると、ぐぽん、と聞いたことのない音がヴァレーの体内に響く。侵すべきでない場所が押し広げられ、男性器がみっちりと嵌まり込む感覚が官能と共に全身を貫いた。
「あ゙、あ゙、あ゙ぁ〜〜〜っッ!! ひぎ、ぃ、あ゙ぁ……ッ」
「……うお、やべぇ……ッ! 締め付けえぐ……ッ!! あ、あ゙……俺も我慢できねえ出すぞ……ッ! ブチ抜かれた場所で残さず飲み込め……ッ!!」
男の身体が最大限まで押し付けられ、繰り返されていた抽送が止まる。ビクン、ビクンと揺れる巨体の動きは、溜め込まれた欲がヴァレーの最奥に注がれている事を示していた。
抱きとめられ、成す術なく男の欲を飲み込まされるがままの身体は巨体から流れる汗に濡れて火照り、激しい快楽の余韻に痙攣を繰り返す。
「あーあ。初中出し決められちまったな」
「おい、出したなら交代だろ。次はおれだ。おれのはでけえから、ガバんなっちまうかもな」
「ほらよ、惚けてる暇ねえぞ、ヴァレーちゃん。まだまだ頼むぜ」
「いや、あ……ぁ……ひ、ぅ……あ、…………あ゛ぁあ゛ぁぁぁぁッ……!!」
「クソッ……! いやらしく吸い付きやがって! そのうちおれのが良くなるぞ」
「んぁっ、ひあ゙ぁぁあ゙……っ!!」
「はぁ……ッ、すげえ……おれのも根元まで入ったぜ。後ろ向かせろ、気ぃ飛ばすまでガン突きしてやる」
「ん……ッ!! あん……ッ、ん、あ、あ、ぁ、ッ……」
「おい、ひでえな、どろっどろにしやがって」
「はぁ……でもだいぶ馴染んできたな。まだまだぎちぎちであったけえ」
「あ? 見ろよ。失神しながら腰揺らしてやがるぜ。この淫乱」
「ここ犯されるのがよっぽど気持ちよかったんだろ。身体で覚えちまったらもう戻れねえよな」
「はぁ……とりあえずもう一周ヤるか。最高だな」
全てが終わると、男たちは目の色を変えて喜んだ。
これは具合が良い。何したって構やしない。これから俺たちの良い玩具だと。
「いい子にしてたじゃねえか。また遊んでやるよ。望まなくても、その頭と身体は俺たちの事を忘れやしねえからな」
暗い部屋に一人残されたヴァレーは、やっと与えられた解放、そして放心のままに意識を手放した。