「帰らせなくても良かったのか?」
「ええ、彼には使用人として来てもらう予定なので、人が来る度に帰ってもらったらお仕事にならないでしょう」
「あぁ、ちゃんと金で雇うのか。そりゃそうか。俺らみてぇにコッチでって訳にはいかねぇもんな」
階段を上りながら、男が鼻をクンクンと動かす。
「——ここの匂い。昨日あいつ来ただろ」
「それが何か?」
ヴァレーの目が、男へと向けられる。彼は口の端に笑みを浮かべると、こう言った。
「で、どうなんだ?ヤったのか?」
「——いえ、あの少年を見てすぐに帰りましたから」
「なんだ、もったいねぇな」
男が耳元に顔を寄せて囁いた。
「——俺ので掻き出してやろうと思ったのによ」
ヴァレーは男に向き直ると、ぱっと手を振り上げる。
「——ッ、先程から貴方は、直ぐにそういうことを」
振り上げられた手は、男にがしりと静止された。
「おいおいおい。今も嬉しそうに準備してきといて、よくそんな”嫌そうなフリ”ができるよなぁ? それに、直前でもなけりゃ残ってるわけもないだろうがよ」
男は掴んだ手を離すと、ニヤニヤと笑いながら意地悪そうに言った。そうして迷うこともなく、ずかずかと二階の一室へと向かうと、尚も上機嫌に話しかける。
「今からだとまぁ、五時間くらいか。二、三発くらいは楽しませてくれるよな? ま、多いに越したこたぁねぇが。今日の肉もいい出来だぞ。普通だったら結構な値段で卸してるやつだ。それをタダで持ってきてるんだから、相応の対価は頂いて帰らねえとな」
部屋に入り、ドアを閉めると、ヴァレーは後ろ手に鍵をかける。そうして、男の声を一切無視するかのように押し黙ったまま、大きな鏡台の方へと向かった。
彼はそこで手袋を取ると、慣れた手付きで顔の後ろに手を回してその面を外したのだった。
面の下から現れたのは、やや年齢を重ねてやつれた肌と、洗い立てを無造作に束ねた髪。琥珀色の瞳に、色の抜けた白い睫毛。しっかりとした鼻梁に、彫りの深い眼窩。
目鼻立ちのはっきりとした、異国情緒の漂う相貌だったが、その目の下は隈を湛え、口元には無精髭が残されていた。
最低限の身だしなみこそ整えられているが、あまり頓着はしない性質なのだろう。
ヴァレーは鏡台の上に、外した面とそれを留めていた白い布を無造作に置くと、不機嫌そうに大きな溜息をつき、じとりと男を睨みつけて口を開いた。
「——はぁ。全く、黙って聞いていれば、貴方は本当に品がありませんね。よくもまぁ鍵もかけないうちからあんな卑猥なことばかり。人がいるというのに、貴方には配慮というものはないのですか」
男はベッドにどかりと腰掛けると、煽り返すように言う。
「よっぽど聞き耳でも立ててなきゃ聞こえねえだろ。それに、そんな品のないやつに今から好き放題にされたがってるのは何処の誰なんだろうなぁ? 下のお坊ちゃんに、最中のあんたの顔を見せてやりたいよ」
ヴァレーは呆れたというふうに、また大きな溜息をついた。
「今ここで何を言われようとも、別に何とも思いませんよ。先程は場所が場所でしたから窘めたまでです。さあどうぞ、いつものようにお気の済むまで辱めたらどうですか」
「そうかいそうかい。ま、とりあえずこうしてる時間がもったいねぇな。あんたもそうは言ってるけど内心欲しくて堪らねえんだろ? 昨日はお預けだったみたいだしな」
ヴァレーの目が、左右にぐらりと泳ぐ。
——強がって見せても、こういう言葉にはめっぽう弱い上に、いざ事が始まれば成す術も無くなるのは百も承知だ。そっちがどう思っているかは知らないが、分かりやす過ぎるんだよ、あんたは。
男は立ち上がると、ヴァレーの後ろ髪を引っ掴み、顔を上に向かせてその唇を貪った。
「ん!、むうっ、う、ぐっ、」
何か言いたげに抵抗をした口内を、グチュ、グチュ、とわざといやらしい音を立てて乱暴に蹂躙する。男の舌がヴァレーの逃げる舌を追いかけては絡め取り、何度も執拗に吸い上げた。
舌を絡められ、歯がぶつかるほどの激しい口付けを繰り返し攻め立てられる内に、ヴァレーは表に貼り付けた意思とは裏腹に、身体が昂っていくのを感じていた。
ヴァレーの身体からは、ふわりと石鹸の香りが立ち上っている。掴まれている後ろ髪もまだしっとりと湿っていた。男はその香りに、酷く情欲を煽られる。
唇を離すと、どちらのものともつかない唾液が糸を引く。男は口元のそれをべろりと舐め取った。
ヴァレーの口元はだらしなく開かれたままで、呼吸は荒く、目の奥はどろりと熱に浮かされて蕩けた顔を見せていた。
「ぷはっ、はぁっ……はぁっ、」
「ガード固そうに見せといてちょっと口付けただけでこれだもんなぁ。全く酷い淫売だよ」
男はその蕩けた顔を見ると、再度その口にむしゃぶりつく。
そうしてもう片方の手を腰に回して下穿きに指を掛けると、下着ごとずるりと一気に引き下ろしたのだった。
激しい口付けに眉根を寄せて、苦しそうに細められていたヴァレーの目が、露わになった自らの足元へと向けられる。
「……ァ、う、」
男は濡れた髪の感触を確かめるように指を絡ませて乱暴にかき乱すと、一気にベッドへとその身体を押し倒した。
ヴァレーも抵抗する素振りはなく、押し飛ばされ、またその身体を乱暴にシーツの上に組み敷かれるがままにした。まだ上の服は身につけたままだったが、男が見下ろした身体からは先ほどのような溜息ではなく、期待に満ちた吐息がはぁ、と漏れている。
「——ほらな、準備万端じゃねぇか」
男は口の端で笑うと小さなケースを取り出し、片手の親指で器用に蓋を開けて中のグリースを二本の指で掬い取る。
準備が良いと言われたことにムッとしたのか、ヴァレーは非難がましい目を男に向けた。
その挑発的な視線に、男の下半身にずくりと熱が集まる。
仮面をつけて他人と交流を取るせいか、彼は素面でも、目で感情を表す癖が付いているのだろう。
彼自身がそれを分かってやっているのかどうかは知らないが、”目線だけで相手の劣情を煽る”やり口に男はいつも、酷く興奮させられた。
男もつられて黙ったまま、ヴァレーの上衣を捲り上げると、彼の双丘にグリースを乱雑に叩きつけた。
「ン、あっ……!」
ヴァレーの身体が、その刺激に小さく反応する。
グリースは肌の温度でどろりと溶けて、双丘の間へと伝い、また太腿へゆっくりと垂れ落ちていく。
よく溶けて肌に馴染むこれは、男の手製だった。
男は片手でヴァレーの後ろ髪を引いて喉を反らせると、もう片方の手を彼の腹の下に入れてグッと引き上げ、尻を突き出させた。髪を引っ張られた痛みと、喉と背を反らされ、無理矢理に取らされた苦しい姿勢に、ヴァレーの口から呻き声が漏れる。
「がっ!? ゔ……ぐっ……!」
ヴァレーの顔が苦しそうに歪められ、目の端にはじわりと涙が滲む。
男は自らが引き寄せ、突き出させたヴァレーの尻を見下ろした。
「さぁ、お待ちかねだ。体は素直なもんだぜ。こっちはもう涎垂らしてヒクついてやがる」
——溶けたグリースでぬらぬらと濡れそぼった彼の雄穴は、度重なる、数え切れぬ男達との情交によってぷっくりと熟れて膨れあがり、まだ一切の直接的な刺激も与えられていないのに、ヒクヒクと物欲しそうに蠢いていた。
男はそれを満足そうに眺めると、さらに下品な笑みを浮かべて言い放つ。
「オラっ! もっといやらしく強請ってみろよ!」
男の大きな手が、その褐色の尻を勢いよくべちんと叩いた。
「〜〜〜〜、ん゙、あぁぁっっ!!」
ヴァレーの目が大きく見開かれ、腹の下のシーツに、パタパタと体液が飛び散る。
ヴァレーのものは男の「それ」としてはその太さも長さも申し分の無いものであったが、後孔で性感を得ることを覚え込まされた身体にとって、もはや男としての役割は半ば失われていた。彼のペニスは今やガッチリと立ち上がる事もなく、性的な絶頂に達した時にピュクピュクと、やや透明感のある体液を吐き出すだけの器官と化していた。
「——ケツ叩かれただけで軽くイッちまったのか? どんだけ欲しかったんだよ。澄ました顔しやがってこのド淫乱が」
男はそう言って、掴んでいた髪を突き放すと、頭をベッドにぐりぐりと押さえつけた。
「ん、あっ……はぁっ……」
ヴァレーは身体を震わせ、吐精後の軽い脱力感に身を委ねていた。無意識に、快楽を後追いするようにゆらゆらと腰が揺れる。
男の言葉やその乱暴な扱いに、今から彼に組み敷かれるのだという事を嫌というほど思い知らされる。
彼に向けて言うつもりは決して無かったが、ヴァレーの身体は、早く手酷く犯してほしいと訴えかけていた。
男の顔前に突き出された雄穴は、その意思を反映して先程よりも更に艶かしくヒクついている。汗ばんだ肌と馴染んだ油とが相まって、むわりとそこから色香が立ち昇って来るかのようだった。
男はその光景にゴクリと唾を呑み込むと、自らのゴツゴツと骨張った二本の太い指を、その穴へと容赦なく突き挿れた。
「あぁっ! んっ、んぅ……、」
ヴァレーの口からはいやらしい喘ぎが漏れ、その両手が無意識に、ぎゅっとシーツを握り込む。
求めていた場所にもたらされた、だがまだ物足りない快感を、ヴァレーは目を閉じて必死に追いかけていた。
男の指がぐちゅぐちゅと後孔を解していく。二本の指は潤滑油のおかげで難なく呑み込まれ、内壁が侵入した指にうねりをかけて絡みついてくる。
男は油を馴染ませるようにねっとりと指を出し入れすると、指の腹でその内壁の感触を味わった。
内壁を太い指でざらざらと執拗に撫ぜられ、ヴァレーの全身を、甘い痺れが包んでいく。
男はその感触をひとしきり楽しむと、前立腺を探り当て、指の関節を曲げてマッサージするように、ぐにぐにと指を押し付けていった。
「……っふ、あぁっ! んっ、く……」
前立腺を攻め立てられ、先程までとは異なる快感が全身を襲う。
再び高まりだした性感に飲み込まれそうになるのを堪えるため、ヴァレーはシーツをさらに強く握り込み、歯を食いしばった。
男の指の動きは次第に激しさを増していく。初めは二本の指だったが頃合いを見て三本、最終的には四本もの指が差し挿れられた。
——ふうふうと、隠し切れない荒い息が漏れる。
ヴァレーの身体は、二度目の絶頂を迎えようとしていた。
グチュ、グチュッと鳴り響く水音に混ざり、男の声が聞こえる。
「おっ、ケツ穴ぐちゅぐちゅほじられてまたイっちまうのか? 今日は何かペース早えぇよなぁ? ま、途中で意識ぶっとんでもヤる事はヤらせて貰うけどな」
一定のリズムで刺激されていたところを、ごりゅ、ごりゅっと乱暴に擦り上げられた。
「〜〜〜〜!、! っっ、あ、あ゙、あ゙」
ヴァレーの目の前にバチバチと火花が飛ぶ。
直接の刺激は一切与えられていないのに、彼は二度目の絶頂に達してしまう。シーツには小さな水溜りが出来、染みが広がっていった。
男はその姿を見届けると、満足そうに指を引き抜いた。四本もの指を呑み込み続けていた穴は、その肢体の主と同じようにぽっかりとだらしなく口を開けていた。親指で捲り上げると、真っ赤に爛れた内壁が元の形に戻ろうと、キュウ、と締まる。
——よくもまあこんなにいやらしく色付いた物だな。
男は自身がこの身体を作り替えた一人なのだと思うと支配欲と征服欲が満たされ、下半身により一層の熱が集まるのを感じた。
男のそれも、今や痛いほどに下穿きの中で張り詰めてパンパンになっている。
ベルトを外して下半身を露出させると、極太のペニスがぶるりと飛び出した。
ヴァレーの尻の上に、先走りでベトベトになった男のモノがずっしりと乗せられる。
その感触に、後ろは見えなかったが、今からこれが自身の中を蹂躙していくのだと思い、ヴァレーはその想像だけで身体をぞくりと震わせた。
「ほら、上も脱げよ」
男はそういうと、自身のペニスでヴァレーの尻をベチベチと叩く。ヴァレーは言われた通りにふらふらと上体を起こすと、緩慢な動作で衣服を脱ぎにかかった。
男の方が先に全裸になると、まだ脱ぎきっていないヴァレーの衣服を無理矢理に剥ぎ取り、ベッドの下へ投げ捨てた。
「全く、いちいち世話の焼けるやつだな、服ぐらいさっさと自分で脱ぎやがれ」
「…………別に、脱がしてくれと言ったわけでもないでしょう……貴方ががっつきすぎなんですよ。人の身体を物のように」
「うるせぇよ。どうせ殆ど喋れなくなるんだからさっさと黙って後ろ向け」
「……なっ……貴方って人は、本当に……っ」
無駄口を叩いているうちに、生理的なもので男の竿はややその熱をと威勢を失いつつあった。
軽く自らの手で扱いて、挿入出来る程度にその固さを戻すと、グリースを再び目の前の尻に垂らし、ペニスをぬらぬらと這わせて素股の要領でその周辺の滑りを良くしていく。
ヴァレーは早く中に挿れて欲しいと思いつつも、ぬる、ぬるん、と間接的にもたらされる刺激に身を委ねていた。
すると、何の合図もなく突然に、ずぷっとペニスが中に押し込まれたのだった。
突き入れた余韻も無いままに、男は腰を打ちつけてヴァレーの体をがくがくと揺さぶり始める。
「〜〜〜ん゙っ?! う、あ゙っ、はぁ、あ゙、あっ、あ、んっ、」
やっと与えられたものの、予想していなかったタイミングでの中への刺激に頭が追いつかず、腰が打ち付けられる度に酷く艶やかな声が漏れる。
男のモノはしっかりと立ち上がって固さを保ってはいたが、まだ余裕もあり、完全に屹立してはいなかった。
ガチガチになるまで、いつものように口淫をひたすらにさせても良かったのだが、今日のヴァレーはいつにも増して淫らな雰囲気を纏っている。
流れを中断したいとまでは思わなかったので、このまま内壁を使って己を高めていくことにした。
——汗ばんだ肌のぶつかる音と、結合部からはぐちゃ、ぐちゅと粘りのある水音、そして律動に合わせて漏れ出るくぐもった嬌声が、部屋の中を満たしていく。
「ん、うっ、ぁ……っ、はぁっ……」
束ねられていた後ろ髪は揺さぶられ、ほとんど解けてしまっていた。ヴァレーは与えられる快楽に身を委ねていたが、徐々に慣れ始め、まだ、まだ足りない、という思いにじわじわと支配されてしまう。
いつもの場所に欲しい。もっと、もっと最奥を貫いて欲しい。もうそれしか考えられなくなっていた。
——そろそろだな。
男のペニスはその質量をさらに増し、挿入した当初よりも確実に奥の方まで届くようになっていた。
ヴァレーが何かをねだるように、律動に合わせて自らの腰を打ち付けているのも分かっていた。
——ここまで来れば、奴の理性は吹き飛んだも同然だろう。
顔や口調では嫌がり、なけなしの理性を保ちながら、淫らに快楽に溺れていく様を見るのも好きなのだが。
そこは男のサガだ。
己のモノで屈服させ、堕ち切って無様に欲しがり喘ぐ姿を見る方が、その何倍も射精感を煽ったのだった。
軽く勢いをつけて律動に体重を乗せると、男のペニスの先端が、やや窄まった固いところへグリ、と当たる。
「おっ、来たぞ、やっとお前の大好きな雄子宮の入口だ。ここをぶち抜かれるのはさぞかし気持ちいいんだろうなぁ?」
「〜〜〜っ、はぁ゙っ、もうっ、御託はいいから、っ、さっさとハメて、ください゙っ、」
「おいおい、ハメるだとか言葉遣いがなってねぇぞ、いつものお上品はどこいったよ」
「っん、知りませんっ、……も、お願い、っ、」
男はやや抵抗があるところまでペニスを押し入れると、結腸弁と口付けをするように、その感触を楽しみながら何度も鈴口をぐち、ぐちと押し付ける。
「あ゙っ、そこっ゙、ぐりぐりっ、ぎもぢ、い゙い〜〜っ゙、」
男は腰を掴む手に力を入れると、自身の体重を乗せて一息に押し込んだ。
ぐぽんと一層激しい水音を立てながら、男の極太のペニスが、結腸の弁を超えて根元までズッポリと差し挿れられた。
「〜〜〜〜!、! っっ、あ、あ゙、あ゙」
下半身周りに緩やかに留められていた快感が、一気に背を伝ってヴァレーの脳天へとぶち抜かれる。
先程までの比ではないその刺激に、自らの意思に反して体がビクンビクンと跳ねた。
男はビクビクと跳ねるヴァレーの身体を押さえ付けると、えぐるように、自らの怒張したそれを最奥へと叩きつけた。
上から体重を掛けて押しつぶされて、普段は届かない結腸まで届いてしまうこの体勢は、ただただ快楽だけを求める暴力的なセックスにピッタリだった。
結合部からはぐぽぐぽと卑猥な音が立ち上り、腸液やら先走りやらの混ざった液体がぐちゃぐちゃと泡立ち、粘り気を増してその周りへと溜まっていく。
男の極太のペニスがずろろろと引き抜かれる度に、その泡だった体液が糸をひき、ぷっくりと充血して赤く膨らんだ雄穴からは内壁の粘膜が捲れ上がり、名残惜しそうにペニスに絡み付くのが見えた。押し込むと、またその粘膜が穴の中へと戻っていく。
——やばい、えろすぎる。精子めちゃくちゃ上がってきたわ。
男の理性も、ここでついにバチンと焼き切れた。
「——結腸っ、貫かれて、イキ狂う男なんざ、見たことねぇぞ、っ! いくらお上品に振る舞っててもなっ、お前の本性はこっちなんだよ、このド変態がっ!!」
「〜〜〜ん゙っ、は、あ゙、あ゙っあ゙ぁっ〜〜〜!!!」
もはや、何も聞こえていないようだった。
ヴァレーの口からは突かれる度に喘ぎ声なのか、獣のような唸り声が漏れ、声の止め方も、音量の調節の仕方も忘れてしまったかのようだ。
「おい、っ、流石に、その声、下にっ、聞こえるぞ、いいの、かっ?、!」
男は突き上げながら、トロ顔で意識を飛ばし続けているヴァレーに声をかけた。
「クソっ、一応っ、言ったからな! 知らねぇぞ! その顔っ、どんだけっ、やらしいんだよ、っ、責任取って、孕めっ! このっ!!」
お互いに、もうそろそろ限界が近付いてきていた。
「おい、ヴァレー、っ、聞こえてんのか?! っ、どこに何が欲しいか、ちゃんと言ってみろよ…っ!!」
ずっと意識を飛ばして喘いでいたヴァレーだっだが、男に名前を呼ばれると、その声に反応してか目の焦点が引き戻され、言葉を返す。
「……ん、ぁ、……あ゙っ、お、おくぅ゙っ、いちばんっ、おくにっ、貴方のっ、せーえきっ、ぜんぶっ、ぜんぶぅ、っ、だしてください゙ぃっ! お゙ねがい、しま゙すゔぅ、っ、」
「っクソ、! お前が言ったんだからなっ! 中に出すぞっ、一滴残さず搾り取れっっ!!」
「〜〜〜〜!、! ん゙、くぅ゙ぅ……!!、」
男の精子が大量に、ヴァレーの最奥へと叩きつけられていった。
びゅるびゅると、呑み込みきれないほどの精液が自らの腸内に流れ込んでいくのを幻視しながら、ヴァレーは自らも果てるとそのまま意識を手放したのだった。
◆◇◆◇◆
——じゅうじゅうと、肉の焼けるいい匂いがする。
「ほらよ、これぐらいがちょうど良いぞ」
「ありがとうございます、頂きます。——うわ、ほんとだ、今まで食べた肉の中で一番美味しいです!!」
僕は長時間の草引きでもうお腹がペコペコだった。でも空腹なんてスパイスが無かったとしても、このお肉はめちゃくちゃに美味しかっただろう。
「……まぁそうだろうな。そりゃ良かったよ」
男はやや疲れた風に見えた。
「あの、ヴァレーさんはどうされました?」
「普段動き慣れてないからだ、掃除の時に疲れたんだろ。ぶっ倒れて寝てるよ」
「え?! 大丈夫なんですか?!」
「……別に大丈夫だよ。俺も今日はよく動いたし、もう帰るぞ。坊主、またそのうちな」
「あ……、はい。ではまた……」
あれ、今の地味におかしくなかったか。
この何時間かのうちに、いつの間にか呼び方が兄ちゃんから坊主に格下げされたみたいだった。
「——そうだ、お前今日は何してたんだ?」
「僕ですか? 庭でずっと草引きをしてましたよ。やり始めると夢中になっちゃって。気がつけば辺りは暗くなってきてたし、もうドロドロのヘトヘトでお腹ペッコペコでしたよ」
「そうかい、そりゃあよかった」
男は小さく息をついたように見えた。
◻︎◻︎
外はもう真っ暗になっていた。この時間にもなると、外気が冷たく感じられる。
経営者の男は歩きながら、今日の出来事を思い返していた。
二、三発はいけるかと思ったが、まさか一発で終わるなんて。
それにしてもあいつ、今日はやけに興奮してたよな。
昨日お預け喰らったからってだけじゃ理由にならねえと思うんだが何かあったか——?
男は少し考え込んだ。
——あぁ、なんだよ。
家の中に人が居るからって、一番意識してたのはお前の方だったんじゃねぇか。
「はぁ——。ったく、しばらくズリネタには困りそうにねぇな」
彼は天を仰ぐと、一人夜道を帰っていった。