「よし! これで上がりだ」
「くっそ……! してやられたか」
「チッ、もう我慢の限界だぜ」
遊戯場では、兵士たちが賭け事に興じていた。
ダイスを振る音に、カードを切る音、放られるコインの音。様々な卓から飛び交う罵声と嘲笑——。
その中心にある大きな台の上で、ヴァレーは景品として男たちに弄ばれていた。
「んぅ……く、ふ……♡」
「はっは、野郎どものど真ん中だってのに、アヘ顔で腰揺らしてよ。もう立派な雌犬だな」
「——お、やべえっ、出るっ……! おら、受け取れッッ!!」
「んお゙ッ♡?! んっ、あっ、あ、あ゙ぁあ゙……♡♡——……ッッ」
「えっぐい声垂れ流しやがって。次は俺が相手だ。その口空いてるなら使ってやるよ」
「ん、ぐッ?! むぐ、うぅ……っ……」
遊戯に勝ち抜いた兵士らは台に上がると、欲のままにヴァレーの身体を組み敷いていく。ヴァレーは激しい突き上げに、声を抑える事すらままならずにいた。行為の終わりに惚けている暇もなく、また新たに訪れた男の股ぐらに顔を押し付けられる。
分厚くぬるついた熱い肉の塊が、抵抗の力を失った口の中にずるりと押し込まれた。
「んぅ、う、ぐぇ……っ」
生臭い雄の臭いが鼻腔へと充満する。無遠慮に喉奥まで押し付けられたそれは生理的な吐き気を催し、ヴァレーの目元には涙が滲んだ。
兵士は荒い息をつきながらヴァレーの髪を鷲掴みにすると、その口内を自らの欲の捌け口へと変えていった。
「……あぁ……。クソっ、は……、ふ——っ。……こっちも随分と上手くなりやがって。喉奥で扱き放題だ……!」
「うぐっ、うっ、ふぁ……」
先ほどまで後背位でヴァレーを犯していた兵士は事を終えても尚、柔らかく弛緩しきったば糜爛を指で広げて弄んでいた。男の白濁がとぷとぷと、後孔の縁から零れ落ちていく。
「ん、ふぁぁ……っ、く、ぅ………ッッ♡」
諦観はあれど、行為への嫌悪は抱くだけ無駄だった。身体は意志とは裏腹に快楽へと隷属し、前後の口を犯される身体は軽い絶頂に達しようとしていた。下腹の筋肉はヒクヒクと不随意に痙攣し、太腿が小刻みに揺れる。腸壁をなぞる二本の指はヴァレーをあからさまに焦らすよう、嬲る動きを緩慢なものへと変化させていく。ヒクつく内壁を、白濁のとろみを利用してぞわぞわと擦り上げるような、ねっとりとした刺激が腰だめに達しきれない熱を篭らせる——。
物足りない刺激を補うよう、身体は男の指を求めていやらしく腰を揺らし始めていた。
「おっ、気持ちいいのか? 捕まっておきながら、いいご身分じゃねえか」
男の声に、ヴァレーはそちらを見遣ると享楽に目を細めた。ヴァレーの中心はゆるやかに勃ち上がり、先端からはとろみのある透明な液体が、銀の糸を引いて台の上に滴り落ちていた。
「おいおい、その顔、まだ欲しいのか? なら、次のヤツが上がるまでこのままケツ弄っててやるよ」
「待ってろよー、ヴァレーちゃん。次は俺の番だからな」
「いいや、俺だ、そのガバガバなエロアナルを俺ので更に拡張してやる」
「——聞いたか? なら、ご奉仕頑張るヴァレーちゃんに、俺から労いの性感マッサージだ」
下卑た男の声と共に、腸腔をまさぐる指に探り当てられた場所——。それは臍下の奥の、小さなしこりだった。だが、それに触れられた瞬間。ぞくりと痺れるようなむず痒さがヴァレーの背髄を電流のように貫いた。肉厚の指がピンポイントで弱い場所を押し込む度、堪えきれぬ官能が全身に波及していく。
「ふぁ……んぁっ、ん……っぐ……♡ むぐぅ……っ♡♡」
「さあて、どれだけ持つかな」
「うぐ……ふぁ……っ♡」
「おら、こっちサボってんじゃねえぞ。もっと舌動かせ」
性感帯へと造り替えられた場所を虐められ、否応なしに感じ入る身体は止められない。それは事後、あの門番の彼が処理をする際に、執拗にヴァレーの前立腺を開発し続けた所為でもあった。ざらついた男の指が、しっとりと潤んだ柔らかな膨らみをコリコリと的確に弾いては捏ね回す度に、慣らされた身体は躾られた痙攣を繰り返す。今やどの兵士もヴァレーの前立腺を容易に見つけ、大きく熟れたそれを嬉々として弄ぶ事ができた。
その刺激はヴァレーにとってもまた、頭が蕩けるほどに気持ちいい中毒的な快楽だった。
「……ん、ん、……んぅ……っ♡」
「見ろよ、ヴァレーちゃんの淫乱腰つきダンスだぜ、おっさんがトロ顔で見境なくケツ振りながらフェラしやがって」
「あ゙——。俺もやべえの上がってきた。そろそろ餌付けの時間だな。喉から胃の中に、産直ザーメン送り届けてやるよ」
前立腺に絶え間なく与えられる性感と、喉奥を突き上げられる痛み——。様々な身体感覚に翻弄されて何もかもが混ざり合い、溶けていく。食道を引き攣らせる性急な抽送は、男の射精がもう間もなくである事を示していた。ヴァレーは無意識のうちに喉奥に注意を向けると、軽く上を仰ぐ。
ヴァレーの髪を掴み、腰を振り続けている男と目が合った瞬間——。先端から、大量の精子が放射された。
「おらっ、残さず飲め!!」
「ん、んぐぅぅっ、う、ぐ、う……っ」
ヴァレーは息を止め、気管に入らないよう慎重に男の精液を飲み下していった。
——ここで抵抗しても、待つのは悲惨な状況である事は既に何度も経験済みだ。噎せ返り、逆流した精液が鼻腔や喉奥にへばり付く痛みと不快感。あれを味わうくらいなら、自ら飲み干してしまった方がずっと楽だった。
ヴァレーは全身を軽く強張らせると、最後の一滴まで気を抜くことなく男のものを胃に送り込んでいく。
「なんだ? 口内射精されてケツ締め付けてんのか。とんだ淫乱だな。ほら、またこっちにも飲ませて欲しいらしいぞ、おい! そろそろ誰か上がらねえか?」
先の男が周りの兵士たちに声を掛けた、次の瞬間。
遊技場にがなり声が響き渡った。
「お前ら、遊びは終わりだ!! 全員そいつから離れろ」
声の主は長官の男だった。その横には従者が二人、木製の台に乗った何かを運んでいる。
長官は大股に、中央のヴァレーへと近づいていく。
だが、その様子はどこか不機嫌そうにも見えた。
「今からもっと良い余興を見せてやるよ」
解放され、遊戯台の上に荒い息をついて横たわるヴァレーに、長官が下品に笑い掛ける。兵士らはひりついた空気を察すると、何が行われるのかを固唾を呑んで見守る事にした。
「今日は、お前に見せたいものがあるのさ。——と、その前に、だ。噂で聞いた話だがな。奥までぐっぽり嵌めたまま、中をじっくり掻き混ぜられるのが好きなんだって?」
「え、ぁ……は……?」
ヴァレーは唐突に投げかけられた質問に面食らった。その問いかけは、あの門番との情交を思い起こさせた。——そう、あの彼は足が悪いため、激しく抜き差しをするよりは竿をぎっちりと最奥の部屋に嵌め込んだまま、時間をかけてヴァレーと繋がる事を好んでいた。しかし、このところあの彼は姿を見せていない。あの門番の代わりには別の新人があてがわれ、足の悪い彼の事を尋ねても情報は何ひとつ得られなかった。そのうえ、代わりの新人による処理は前任の彼のものと比べるとひどく乱雑で、ヴァレーはそれからというものの自ら身体を清め、後孔の処理を行わなければならないほどだった。
ぐったりと全身を弛緩させたまま、ヴァレーがそう思い返していると——ふと、何処かから漂う異臭が鼻腔を掠めた。それはここに来て嗅いだ事はない——だが、医師として、そして介錯者として馴染みの深い『厭な』臭いだった。
「見せたいものってのはこれだ。ほらよ」
横たわるヴァレーの目の前に、ひなびた肉片のようなものがポンと投げ入れられた。雑に切り取られたそれは既に数日が経過しているようで、半ば変色し、細長い筒状の肉片は一見、何であるのか判別が付けられない。
「……?」
「分からねえのか? 散々咥え込んでおきながら、つれねえな」
その言葉と朧げな推測に、ヴァレーの脳内がひとつの像を結ぶ。男の口ぶりから、目の前の腐りかけた肉片の正体は恐らく、男の性器なのだろう。否、だが一体、何のためにこんなものを見せつけに——? ヴァレーが疑念を口にしようとしたその時。長官の後ろに控えていた従者二人が、無言で前へと踏み出した。先ほどから彼らが両端を支えている木製の台。その中心には、薄汚れた布が被せられていた。不穏な空気、そして先ほどの厭な臭いがより一層、強くなっていく。
「宴も酣ってやつか。ま、勿体ぶっても仕方ねえ。そろそろ余興の答え合わせといこうぜ」
ふつふつと、おぞましい予感にヴァレーの全身が粟立ち始めていた。当初の気配とは一転、機嫌を取り戻したかに見える長官が、薄汚れた布を勢いよく取り去った。
それと同時に眼前に現れたもの。そして、異臭の正体。
それは切り落とされ、串刺しにされた、あの門番の頭だった。
「ひぃ、ぎ、ぁあぁぁあっ!!」
眼窩にはダガーが幾本も突き刺さり、頬の肉は削げ落ち、腐敗して蛆が沸いている。それは先ほどの肉片と同じく、死後何日も経過しているようだった。先程よりもより一層の強さで色濃く漂うのは生が死へと変容する時に放たれる臭い。
医師として、そして介錯者として馴染んだ甘ったるく粘ついた、耐え難い腐敗の臭いが肺腑の奥に充満していく。
哀れな門番に何が起きたのかはもう明白だった。原形を留めぬほどに損壊された頭部。そして凄惨な拷問の痕跡。目の前に置かれた、かつて彼であったものは、ただ虚ろにヴァレーを見つめていた。
「ひっ、い、ぁ……、そん、な……! う、ッ、ぶ、ぐっ、ゔえぇぇえッ……!」
もはや到底、思考の処理が追い付かない。現実を否定しようとする頭は拒否反応から胃の奥を痙攣させ、激しい嘔吐反射を引き起こす。だが、吐き出すものなど何も残されてはいない。ただ一つ、先ほど飲み下したあれを除いては。嗚咽と共に吐き出されたのは胃液と、白く濁る欲望の残滓だった。
「ったく、腹立つよな。こいつ、自分がどれだけお前のことをイカせられるか、自慢げに語ってやがったんだとよ。俺たちが使った後に、まだ楽しんでやがったってのか? この卑しい盗人め。何の役にも立たねえ雑魚の門番風情が、舐めた真似するからこうなるのさ。風紀の乱れは上官として見過ごせねえ。そうだろ?」
「あ、あ……」
「罰として、こいつの前で俺たち全員に犯されろ。全員だ。終わるまで気を失うんじゃねえぞ」
串刺しの頭部が宙を舞い、汚水の混じる木桶にぞんざいに投げ入れられる。ダガーが突き刺さり、崩れた眼球は、未だヴァレーをじっと見つめていた。
先ほどまで頭部が置かれていたヴァレーの眼の前には、行き場を失くした蛆たちがうぞうぞと新たな隠れ場を求めてのたうっていた。
◇
「見てろ……っ、今日こそ根本まで飲み込ませてやる!!」
「あ、はぁぁっ……! そこ、お゙っ、も、むり゙っ、壊れ、ゔぅっ……」
「なんだ? こいつには許して、俺の事は拒みやがるってのか? 随分と身持ちが固えじゃねえか」
「っ、は……、も、許して……っ」
兵士たちが無言で居並ぶ中、ヴァレーはその中心で激しく征服されていた。
ヴァレーとて、自らを犯すようになった門番の彼に少なからず嫌悪の情はあった。だが、あの門番がヴァレーに向けてそうであったように——、ヴァレーもまた、兵士らから粗雑に扱われる彼の境遇に同情してもいた。それに、初めこそ乱暴にされたが門番の彼の行為は兵士らの暴力的なセックスとは違う丁重な扱いで、深い繋がりと得られる充足感、そして行為の後で交わす血の通う会話に心を開き始めてもいた。
——衝撃的な光景を否定しようと混濁していくヴァレーの思考は、地獄のような現実から逃避するために、あの門番との情交の記憶に浸っていく。長官に対する嫌悪で強張っていた身体は逃避と錯誤で緩み、甘く痺れ始めていた。
「お、どうした? 俺ので感じてるんだろ。どんどん奥に入っていくぞ?」
ヴァレーはままならない頭でふわふわと首を横に振る。
「ククッ、嫌じゃねえよな。これだけ自分から呑み込んでおいて。ほら、抜けよ」
「う、あ、……ふっ……♡」
ヴァレーはもはや言いなりとなって、男から身体を引き抜いた。だが、甘やかな情交を思い返していた頭にとって、それは想像よりもずっと凶悪な刺激だった。
「ん、ん、ん゙〜〜〜?!っっ♡♡」
「どうした、もうイっちまうのか? 俺のチンポが欲しくてたまらねえんだろ」
「ハァッ、ハァッ、は、ぁ……っ♡ ぁ……♡」
極太の竿で擦り上げられる度に視界はクラクラと明滅する。
一度弛緩して受け入れ、すっかりその太さに馴染んだ腸腔は快楽を甘受しつつも、どこか物足りなさを訴え始めていた。図太い肉棒がぎっちりと身体の空隙に嵌まり込み、出入りを繰り返すが、最奥までには至らない。赤黒く血管の浮き出たそれがヴァレーのアナルを拡張し、意思を持った生物のように蠢いていく。グロテスクな想像は身体に与えられる甘やかな戯れ、脳髄を蕩かせる至上の快楽に上書きされてしまう——。
ヴァレーの頭は無意識のうちに、男を求めて揺れていた。
「……さっきまでここまでしか入らなかったのによ。行き止まりが吸い付いてきてやがる。ああ、ようやくだ。いよいよぶち抜けるぞ。お前の身体が、ついに俺の事を受け入れる時だ」
長官は周囲の目も忘れたかのように、愛おしそうにヴァレーに囁きかけていた。ずぶっ、ずぶっと粘質な音を立て、深く長い挿入が繰り返されていく。ヴァレーの内壁の終端もまた、男の言葉通りにヒクヒクとその先をねだるように悶えていた。
観念した頭と身体は、じきに訪れるであろう最奥への刺激を受け入れるべく張り詰めていく。
上官の男がひときわ大きく身体を引き抜き、腰を引き寄せる手に力を込める。そしてヴァレーに向け、征服的な笑みを浮かべてこう言った。
「おらっ! これで全部だ! その身体に分からせてやる……ッッ!!」
どちゅ、ぐぷ、ぐぽっっ! と、ヴァレーにとっては既に経験済みの、あの卑猥な音が体内に鳴り響き——。直腸の更に奥、結腸弁がついに、長官にぶち抜かれた。
「ひぎっ、う、ぐ、あぁぁぁあっっ?!!」
その刺激に、拷問を受けた叫びにも似た声が空を裂く。ヴァレーの身体はガクガクと激しく痙攣を繰り返し、訪れる絶頂に身悶えていた。長官は跳ねる身体を押さえ込みながら、恍惚として自らの身体を限界まで押し挿れる。
周りの兵士たちも皆、その凄惨な行為にただ釘付けとなっていた。ヴァレーはあらん限りの声で、気が狂ったように叫び続けていた。
「どうだ、俺の方がずっと凄いだろう……! お前の雄子宮に、誰が本物の主人なのかきっちり教え込んでやろうじゃねえか!!」
「ひぁ、う、ぐぁぁぁっっ、あ゙ぁぁぁっっ……♡♡」
「お前らもしっかり目に焼き付けとけよ……! おら、孕め、このッッ!」
男の動きがひときわ激しくなり、ぴたりと止まると共に——。ヴァレーは多量の欲の放埒が自らの腹の奥へと流れ込む感覚を味わっていた。行為の終わりと、腸内を引き摺り、抜き取られていくグロテスクな長さのもの。拡張の余韻にぽっかりと弛緩してしまった括約筋は、しばらくは充血していた真っ赤な内壁を衆人環視に向けて晒していた。だがそれも、ヒクヒクと悶えながらゆっくりと閉じていく。最奥に放たれた白濁は、未だ溢れては来なかった。
「ふーっ、やっと俺のものになりやがったな。ったく、手間かけさせやがって」
「上官、もう使っていいんすか?」
「ん? ああ、好きにしろ」
長官の機嫌は誰が見ても明らかで、今ならどんな無礼講も許されるように見えた。長官が台を離れた後、その場にいた兵士たちは時間を取り戻したとばかりに雪崩れをうってヴァレーに押し寄せる。
「さっさとやらせろよ。あんなもん見せられて、お預けはなしだぜ」
「ケツガバガバじゃねえだろうな、あぁ?」
ヴァレーの身体には再び、獣の交尾のように流し込まれ果てるだけの行為が永遠とも思える時間の中で繰り返されていった。
目の前の木桶の中からは、あの門番が変わらずに見つめている。浅く早い呼吸に、脳は酸欠を起こし始めていた。引き攣れるような嗚咽と共に、視界が端からじりじりと焼き切れていく。ふっと瞳が天を仰いだ瞬間——。ヴァレーの身体は糸が切れた人形のように、ぐにゃりと崩折れる。意識を失う瞬間、瞼の裏に浮かぶ顔は薄笑いを浮かべていた。