長官が門番を呼び付ける声を遠くに、ヴァレーは寝台の上に力なく横たわっていた。
時間の感覚すら分からなくなるほど続けられた行為の余韻に、未だ身体に充分な力は戻らない。しかし、門番の男が呼ばれたという事は、他の兵士がここを訪れる事はないのだろう。
——そう、少なくとも次の朝が来るまでは。
それはヴァレーがここに来て理解した、幾つかの事柄のうちのひとつだった。
顔へと纏わりつくのは乱されて解けてしまった髪。様々な体液にべたつく身体には不快を覚えた。
だが、今から行われる清拭へと身を委ねるために、ふうと小さく息を吐く。
ざり、ざり、と脚を引き摺る音が耳に響いていた。
足音の主である門番の彼は、まだ歳若い兵だった。だが何処かで負傷でもしたのか、もしくは元来脚が悪いのか。戦には出られぬ身体なのだろう。それ故に、こうした雑用を任されているようだった。見る限りでは食事も残り物で、いつもヴァレーの側で骨ばかりの粥を啜っていた。大柄な男たちばかりの部隊の中、この彼はひときわ小柄で、痩せて見えた。
引き摺る足を止めた門番は、たっぷりと湯を湛えた桶をヴァレーの寝台の傍に置く。手には清潔な布が握られていた。そうして無言のままで湯桶にそれを浸すと、硬く絞った布で横たわったままのヴァレーに触れ——汚された身体をゆっくりと、丁寧に拭き上げていった。
「……っ、ふ……」
温かな湯に浸された布が肌へと触れる心地よい感触に、ヴァレーの喉から思わず声が漏れる。
この門番は他の兵士らのように、ヴァレーの事を手酷く扱ったりはしなかった。それは、あの長官に「丁重にもてなすように」と言い付けられていたからなのだろう。皮肉な事ではあるのだが、幸か不幸か、この場所で甚振られ、時に傷付けられた身体が悪化せずにいられたのは、ひとえにこの門番による世話——もとい適切な後処理の賜物だった。
ヴァレーはほんの少しだけ、この門番に気を許し始めてもいた。ここで性奴隷として囲われる日々の中、こうして手入れを施される間は苦痛が与えられる事もなく、あえなく痴態を晒してしまう事もない。また、清拭の際に交わす会話は事務的かつ穏やかなもので、そうした安心感からか、先ほどまでの痛みに強張っていた身体はゆるやかに弛緩して、温かな布で肌を清められる度にとろんと瞼が落ちていく。ふにゃりと緩んだ肛腔からは、どぷ、ごぷっと音を立て、先の性的な陵辱の痕跡が晒け出されていった。
門番の男は溢れ出した淫靡な行為の残滓に気づくと、それを丁寧に拭い取る。そして、「痛かったら教えてくれよな」という声掛けと共に——ふっくらと腫れあがり、ぐずぐずに緩んでしまったヴァレーの後孔に、ぐぷんと指を埋め込んだ。
「ゔっ……く、ふ、うぅっ……」
それはいつもと変わらぬ処置のはずだった。だが、鉤型に曲げられた門番の指が肛腔の入り口を割り込み、柔らかな腸壁をぐりぐりと捲り上げながら、それを決して傷付けないようにゆっくりと奥へ、奥へと這い進む感覚に——ヴァレーの脳天は、びりびりと痺れるような官能に貫かれてしまっていた。男の指が腹の中を撫ぜるごと、神経が灼けつく快感が火花を散らして背髄をゾクゾクと駆け上っていく。電気的な刺激は性的な悦楽と直結し、とりわけ指先や足先の末端をじんじんと甘痒く悶えさせた。そうした後処理にすら感じてしまっている自らの身体が、ヴァレーには到底信じられなかった。
——この身体は、一体どうなってしまったのだろう。複数の見知らぬ男たちの中で乱れていた、あのおぞましくも卑猥な情景が脳裏を埋め尽くしたあの瞬間から——現実に抗おうとする自我とは無意識に、身体は快楽の泥濘から抜け出せなくなってしまったのか?
ぐちっ、ぐちっ……、ぐぷ、ごぽっ。
男の指が白濁を掻き出す音が耳を煩わせる。それは、全ての行為を終えた虚ろな身体に与えられるものだった。だが、挿入から性的な報酬を得ようと貪欲な涎を垂らし始めた身体はそうした指の動きにすら感じ入ると、堪え切れずに腰をヒクつかせてしまう。
「んぁ、っ、ふぁ……は、あぁっ……」
「ん、どうした? 痛むのか?」
「ッ……ぁ、いえ……っ」
男の問いかけに、ヴァレーは羞恥に顔を赤らめて口をつぐんだ。
そもそも、門番の男はヴァレーの事を性的な対象として見てはいなかった。後処理や世話を命じられ、ただ逆らえなかっただけなのだろう。兵士たちから性的な加虐を加えられ、事後の屈辱や痛みに嗚咽を漏らすヴァレーに向けても、半ば苦い顔をしながら後処理を行っていたものだ。門番の男はそうした処置の最中に、こうも言っていた。「……あんたが来てくれなきゃ、今頃ここに居たのは俺だったかもしれねえ。俺もあんたの身体は長持ちするよう、大事にしてやりたいのさ」と。男がヴァレーに抱いていた感情は『こうなるのが自分ではなくて良かった』という安堵と、性奴隷として日夜兵士らに陵辱されるヴァレーに向けた、純粋な憐れみであったのだろう。
しかし、この時のヴァレーには気付く由も無かったが、苛烈な行為を日々間近で見せつけられ、独房を出入りする兵士らの満足げな感想を聞かされて——門番の心の中にも、すでにどす黒い感情が芽生え始めていた。
まだ歳若い男にとって、性欲とは何より抑え難い欲求のひとつである。
初めは確かに、彼とて男の身体に興味はなかったのだろう。それに、目の前にあるヴァレーの身体もまた、傷付けられては痛みに悶えるのみであった。だが、今や彼の尻穴は淫靡な性器さながらの潤んだ柔らかな器官へと変貌し、発せられるのはただひたすら快楽に溺れる喘ぎ声。変わり映えのしないこの場所で日々兵士たちの雑用ばかりを言い付けられ、鬱憤を晴らす事もできずに娯楽とは無縁である現状と、目の前の無防備に犯される裸体を見せつけられて——歳若い彼の下半身が刺激されずにいられる事など、あろうはずもなかった。
先ほどの、耐えかねてヴァレーが漏らした嬌声。その声にぴたりと動きを止めると、男はこう問いかける。
「おい、あんた……。もしかして、ここが良いのか? 俺の指で、いやらしく感じてやがるのか?」
背後から耳元に囁かれる声。ヴァレーはそれに、今までの彼からは聞いたことのない性的な意図を汲み取った。それと同時に、鳩尾にぞくりと冷たいものが流れ込む。だが、この状況ではもう抗う事などできない。後処理のためにと白濁を掻き出していたはずの男の指は、ヴァレーの腰がビクンと跳ねたその場所を——もはや隠しきれない好奇心と嗜虐心を覗かせて、陰湿に嬲り始めた。
「……何、を……ッ? んう、っ、あ、お待ちなさ……っ、なッ、あ、ひあ゙ぁぁあ……ッッ……!」
ヴァレーの感じた嫌な予感は、やはり正しかった。男が始めた腸壁への愛撫に、腰が否応なく跳ね上がる。うつ伏せの両脚は左右にぱっくりと開かされ、尻は男の指を受け入れやすいよう、ぐいと上向きに引き寄せられた。ギシギシと軋む木製の台の上、ヴァレーを感じさせるためだけの粘質な手淫が施されていった。
「なあ、ここだろ? このしこり、前と比べて格段にデカくなってきてやがる。指で押してやったら腰揺れてたのも全部、知ってるんだからな」
「は、ゔ、あ、あ゙ぁ゙ッッ♡あ゙ぁぁぁあッッ♡♡」
男は性感帯へと作り変えられてしまったヴァレーの弱みを指の腹で押し潰すと、断続的に刺激を与えるよう、わざとらしく爪先で弾き続けた。
「ほら、ほら、こうやってシコられるのが気持ち良いんだろ? ククッ、おっさんのくせにケツ犯されてよがってみっともねえ。……ヤられてる時のあんたの声な、最近どうにもおかしいと思ってたんだ。ここの見た目もすっかり卑猥に変わっちまって……。あんたのケツの穴、縦に伸びて赤く熟れて、指突っ込んだら奥の方からうねって吸い付いて来るんだぜ?」
「んっ、んうっ、は、あっ……、そん、な……事、お゙っ♡」
「この吸い付きで奴ら全員のチンコから精子搾り取ってやがったんだろ。……なら、俺だって構わねえよな。明日はまたデカい任務があるらしくてよ。夜明けから敵陣に奇襲を掛けるとやらで、全員が昼過ぎまでは戻らねえ。帰還と同時に、五体満足な兵士どもはきっと、あんたのところに雪崩れ込むだろう。……だが、今ここには俺とあんたの二人だけだ。それがどういう意味か、もう分かるよな?」
ヴァレーは門番の言葉から至る想像に、ごくりと喉を鳴らした。後処理は、とうに終わっている。だが、門番の男は言葉を終えるや、ヴァレーの想像の通りに——無防備な身体へと、獣のように襲い掛かった。
「あ゙ぁ、っ、あ、貴方まで…………」
背中や耳元に、興奮に荒く熱い息がかかる。それはいつもの屈強な兵士たちではなく、あの痩せぎすで、足の悪い門番の男のもの。だが、今や欲に滾った雄と化した男は、意外な程の強さでがっちりと四肢を押さえ込むと、剥き出しにした下半身を目的の場所へと押し付けていった。左右に割り開かれるヴァレーの双脚、そして尻の谷間に——ぬめりを伴った生温かい肉の塊がぐりぐりとめり込んでいく。
「——全部、あんたが悪いんだからな。痛々しい叫びばかりなら、俺も虜囚として憐れんだまま変な気を起こさずにいられただろうさ。でも、ここ最近はどうだ? 豚みてえなメス声で喘ぎまくってよ。さっきの長官とのセックスなんか凄かったぞ。……あんな喘ぎ声、始終聞かされる身にもなってみろ!」
ぐち、ぬちっと肉厚の質量が、尻の割れ目にぎちぎちと呑み込まれる。
「ひ、ッ、ぐぅッ……! それは、そんな事は……、あ゙、あぁぁぁあッッ♡♡」
抵抗すれども、男の熱く滾った楔は、すでに異物として直腸内へと侵入し始めていた。長官のものと比べるとやや直径の小さい門番のそれが、緩み、潤んだ腸腔を滑らかに出入りする。
「……うおっ?! 中の感触やべえ……! とろとろでぎちぎちでぬるぬるで……こんなもん、チンコ扱くための専用穴じゃねえか……!」
「ひあっ、あ゙っ、あ゙っ、あ゙♡」
ずっ、ずぷっ、ずちゅっ、ずちゅ、ぐちゅん。
いきりたった怒張が柔らかな腸壁を擦り上げる度、いやらしい水音が結合部から鳴り響いていた。男は積もり積もった快楽を貪るため、一心不乱にヴァレーを犯し、夢中になってその具合を味わい続けた。ヴァレーの身体もまた、底無しの愉悦と官能に沈められてゆく。全身に波及する苛烈な快楽が頭を塗り潰し、ヴァレーはもはや自らの意思では分からぬまま、脳が求める言葉を夢の中のように男へと垂れ流す。
「貴方……ああ、私の貴方……ッ、もっと、もっと深く……そこ……抜かな……で……♡」
寝台に押さえつけられ、左右にいやいやと揺れるヴァレーから向けられた気怠げな眼差しが、しっとりと男を見つめていた。振り向き、汗ばんで張り付いた髪、顔はほんのりと朱に染まっている。潤んで蕩けた目元、そして唾液に濡れた赤い口元から溢れ出す、官能に染められた言葉と色香が、門番の下半身を痛い程に刺激した。
「……やっぱりな。あんた、あいつらにそんな事言ってやがったのか。元々、こうされるのが好きだったんだろ。同情なんざ、不要だったって訳だ。……だが、俺がこうやって毎日あんたの尻の穴を丁寧に弄り倒してやってたんだ。感度が上がってきたのは、そのせいかもな?」
その言葉に肯定を返すかのよう、ヴァレーの頭と腰は艶めかしく揺れていた。
「……ほう、随分と聞き分けのいい身体じゃねえか。ならお望み通り、ぶっ飛ぶまでイカせてやるよ……!」
——独房の中の熱と湿度が上がる中、ヴァレーは絶えず男を受け入れ続けた。今は背後から太腿を開け広げるように抱きとめられ、胡座をかいた男の上を幾度も串刺しにされているところだった。自重と共に呑み込んだ楔が腸壁の向こう、感度の上がりきった性感帯を押し潰す。開かされた太腿の間に揺れるヴァレーのものも、そうした後ろだけの刺激で感じては固く屹立してしまっていた。ばちゅ、ばちゅんと結合部を突き上げられる度、それが所在なさげに情けなく揺れる。
「んあっ、♡、あ゙っ、あ、あ゙♡」
「……どうした? あんたのチンコも、弄って欲しそうにビンビンに主張してやがるぜ」
粘質な声が咎めるように囁いた。同時に、腿を支えていた手がヴァレーのペニスへと伸び——剥き出しの亀頭をぐりぐりと撫で回す。終わりのない挿入にもはや身体中の感度が最高潮であった中、敏感な場所を擦られて——もはや限界を迎えるのみだったヴァレーの先端は、ぷしゃっと透明な体液を噴き出した。
「ひっ、あ、ゔあ゙ぁぁぁッッ……!? あ゙ぁっ、なっ……♡これ、止まらな……っ……」
前後から与えられる快楽、そして体液の解放とが結び付いたその瞬間——。言いしれぬ絶頂が、ヴァレーの全身を深く駆け巡っていった。激しい痙攣に見舞われて、目の前は白く飛び抜けて明滅する。思考すら奪われるほどの快楽。だが、その頭の片隅で、ヴァレーは自らのペニスから噴き出してしまった体液の量に無様にも男の前で漏らしてしまったのだと、そう思った。体液の漏出を止めようにも、身体は言う事を聞かない。自らの中心から勢いよく前方に噴き出すそれを、もはやどうすることもできずにいた。男が身体を深く串刺しにする激しい突き上げに脳髄は灼かれ、抵抗をやめ屈服した直腸は媚びるよう男の竿に甘く絡み付く。
「……おいおい、あんた男のクセに潮まで吹きやがったのか? この身体、もうチンポにハメられる事でしかイケなくなっちまったんだろうなあ?」
「~〜♡~~ッッ♡♡ぁ゙あ……ッ♡あ゙っ♡あ゙っっ♡♡ん゙、ぅうっ……♡♡イッ、で、る゙ぅゔ、ゔ、っ」
そうした煽りに返す言葉すらなく目の焦点も合わぬまま、ヴァレーの身体はビクビクと不随意に痙攣し続けていた。腸壁の奥が小刻みに収縮し、きゅっ、きゅっ、と一定の間隔で中の異物を締め上げる。それはまるで、男の射精を促そうとするかのようだった。
「……クソッ、雌みてえに先っぽ吸い上げやがって、この淫乱肉便器が!!」
男は背面座位から後背位にヴァレーを押し倒すと、繋げたままの怒張を更に奥深くへと密着させた。長官の極太の竿に拡張されていたヴァレーの直腸にこの門番の——だが長さは充分な肉棒が、限界まで深く挿入される。男は鷲掴みにしたヴァレーの腰を力任せに引き寄せた。潤んだ結合部、そして柔らかな直腸の終端は今、無理矢理にこじ開けようとされていた。
「いぁ゙っ♡♡なに……あ……♡奥、それ、も、から、だ、おかし……っ……♡♡」
ヴァレーは僅かな理性と共に、それ以上の男の動きを諌めようとした。身体は警鐘を鳴らしていたが、本能はその先を求めているような、ぞわぞわとした奇妙な感覚が全身を駆け巡っていく。いくら言葉や理性では拒否を示しても、身体は男の更なる侵攻を許し、深く腰をうねらせる。
「ッ、吸い込みやべえ……ッッ、なら、俺のがどこまで嵌まるか見せやがれ!」
男が唸り声と共に竿を引き抜き、そのままの勢いで再び深く挿入した。互いの肉欲が快楽を貪り合おうとするタイミングが合致したその時に——。
どちゅ、ぐぼっ、ぐぷぷんッ!
直腸の最奥が聞き慣れぬ音を立て、腸腔の突き当たりの更に奥にぐぽっと男の亀頭がめり込んだ。それと同時に、今までの感覚を凌駕するほどの凄まじい快感がヴァレーの全身を貫いていく。腸腔内部は激しく波打ち、全身が身体を支えきれぬほどにビクビクと跳ね上がる。
「な――ッ?! お゙……♡あ゙あぁああ……ッ♡♡だめ、……っぐっ、♡イくぅ゙……♡お゙、ほぉッッ……♡♡」
ヴァレーの理性は、ここでついに陥落した。今あるのは全身が受け入れようとする快楽だけ。流れ込む快感を処理しきれぬ身体は本能のままに喘ぎ声を垂れ流し、男を欲して完全に堕ちていた。
「んぶっ、ん♡んぅう♡♡はぁっ、はーーッ……♡い、ッぅぐ♡♡ふぅ゙うう♡」
「おら、オラっ!! イけよ!! 俺のチンコでイキ狂えっっ!! ふざけやがって、このまま奥に全部ぶっかけてやる……! うぉ、出る、出る……!」
溜め込まれた門番の欲望がヴァレーの中でぶわっと大きく膨らみ、勢いよく弾ける感覚が体内へと流れ込む。男の射精は深く長く、数回に分けて放射されるそれが真新しい場所を白く塗りつぶしていった。
「ふーーっ♡、ふーーっ♡、ッ、奥……っ、貴方の……熱い……ッ、ゔ、あぁ……♡♡————」
「あ゙——、まだ、まだだ……ッ、おらっ、腰逃げてんじゃねえぞ……!!」
そうして、毎度後処理のたびにヴァレーにささやかな同情を見せ、身の上話をしていた門番の彼はついに、数多の兵士らと同じよう、ヴァレーを性処理の玩具として見るようになった。
門番の彼は兵士らがヴァレーを使い終えた後、今まで通り自らの仕事を粛々と遂行した。だが、兵士らが任務に出払った隙を見計らうと、ただひとりヴァレーの最奥を独占するため——その身体を隅々まで、きっちりと清め始めるのだった。