Addicted to Debauchery(短編集WEB全文・ここから全話飛べます) - 2/2

 

呻きに交じり、微かに聞こえる艶のある声。
純白の女神像がゆったりと手を広げ、微笑んでいる。
兵士は朦朧とする意識の中、自らの上に跨る聖女の痴態を見た。
「——ここまで来りゃいかれちまったも同然だな。ありゃ流石にもう、犯す気にもならねえよ」
「散々楽しませてもらったが、俺たちよりも底なしだ。一日中よろしくヤり続けてたってのに、飽き足りずここの傷病兵にまで手を出しやがった」
「面白えよな。あれに乗られると兵士は安らいだ顔で死んでいく。最高の死だろうよ。終わりなき苦痛から、一瞬の快楽を得て旅立てるんだからな。ほうら、もうすぐ搾り取るぞ」

「あ、あぁぁっ…も、イくぅ……ッ……!! ふふ、思う存分、私の中にお出しなさい……♡」
激しく揺れる、ふたつの影。修道女か、はたまた聖女にも似たその姿は天を仰ぎ恍惚とすると、動きを止めてしまった兵士からゆっくりと身体を持ち上げる。
白面を嵌め、兵士に跨るのは壮年の声をした男だった。身体の下の傷病兵は、すでに事切れていた。横には、新たな寝たきりの兵士が今か今かと惚けた顔で「その時」を待っている。
「ふふ、貴方も私に生の証を遺したいのですね……?」
兵士は包帯頭で強く頷いた。白面はギシギシと寝台を軋ませながら身体を起こすと、包帯に巻かれた兵士の下半身を丁寧に曝け出していく。
そこからは、血膿がじゅくじゅくと漏れ出していた
「ああ、これはお辛いでしょう……。今すぐ、楽にしてあげますから……」
白面の男は傷病兵に跨ると柔らかな尻を左右に割り広げ、両の脚をM字に開脚したまま、血膿だらけの男の陰茎に躊躇いもなく身を沈めていった。
「ん、ぁ……ふぁ、あ……ッ……」
もはや治る見込みもない病に侵され、ぼこぼこと腫瘍で盛り上がったグロテスクな陰茎が白面姿の男の尻に呑み込まれる。
「……ぁっ、貴方の、そこ……っ、当たって、気持ちいい……ッ♡」
白面の男は喉をのけ反らせて喘いだ。そしてそのまま、傷病兵の身体の上で、はしたなく身体を揺らし始めた
「んぁっ、あっ、あん、はぁっ、あんっ、あっ……♡」
ばちゅ、ばちゅんと、傷病兵の腹の上に尻たぶが叩きつけられる音が響く。
尻の中からは血膿に爛れたグロテスクなものが、埋められては引き抜かれ姿を現していた。
「うげえっ……あんなもん生で入れて、完全にイカれてやがる」
先ほどから、その様子を眺めていた衛兵のうちの一人が言う。

「——どうですか? 貴方、痛みは……?」
「最高だよ……! あんたの中、熱くうねって聖女様の胎の中に包み込まれるみてえだ……う、あっ、もう出ちまう……っ!!」
「……うふふっ。さあ、どうぞお好きなだけ」
二人は身体を繋げたまま、幾度か大きく身を揺らした。
「……はぁ。素敵な最期でしたよ。……私の貴方」
そう告げた身体の下には、先ほどと同じく事切れた兵士の姿があった。
「——次は、俺の番だ。さあ、まだ生きてるうちに全部搾り取ってくれよ……!!」
「ええ。仰せのままに……」
白面は先ほどと同様、順番を待つ傷病兵をひとり、またひとりと死出の旅へと誘った。
「ああ……流石に、お腹が重たくなってきましたね……」
しめやかに膨れた下腹を、彼は淫靡な手付きで撫で摩るとくるりと振り向き、白亜の像に目を向けた。そこには、聖女像が両の手を広げて佇んでいた。
「モーグ様……再三申し上げておりますが、一向に目覚めぬ貴方様の伴侶ではなく……、この私、ヴァレーに偉大なるお力を宿して頂けたなら。必ずや、この身体は王朝のための繁栄を遂げて差し上げられましょう。お応えいただけぬのは、私の献身が足りないのですよね?
もっと、もっと励まなければ……」
「あいつ、何言ってやがるんだ? まさか……」
「はっ、男の種が好きすぎて、正真正銘イカれちまったのさ」
「大方、聖母のつもりか? 教団の司祭に仕込まれ、信者の相手をさせられ続けた哀れな末路だな。真実の母信仰、その成れの果てだ。自らの身体を傷付け流れる血を供物とし、その血でトランス状態になって快楽を貪り続ける異端のカルト集団。奴らは血塗れとなった自らの身体を依代に、神を降ろす事ができると信じているらしい。初めはどうだったか知らねえが、あいつが仕込まれた司祭の教えだと、精液も血液と同じなんだとよ。ま、あれはじきに感染症で死ぬだろう」
「あーぁ。勿体ねえな、男のケツとは思えねえほど名器だったのによ。バカになるまで散々使ってやったよな。ほら、どうだ? 今のうちだぜ。刑事さんも試してみるか?」
「……いや、遠慮するよ」
「タレコミの報酬ももらった事だ。俺たちはそろそろ行くぜ。で、奴をとっ捕まえるのか? あの状態だ。頭のネジも飛んじまって、何も吐かねえと思うがな」
「彼——、白面のヴァレーがカルト教団の司祭を匿い、逃した張本人。そして組織の重要参考人と聞いていたが……。まさか、あのような状態とは」
「俺たちは正しい情報提供をして、ここに案内したまでだ。それ以上は知らねえよ」
三人の衛兵は嘲笑うようにして聖堂を去った。

刑事はゆっくりと、ヴァレーに近付いていった。念のために、いつでも拳銃を取り出せるように手を掛けたまま。
「おや、刑事さん……、前にもお会いしましたね。そんな物騒なものを持って、どうするおつもりですか? 今更、このヴァレーが死を恐れるとでも?」
ヴァレーはそう言うと、最後の傷病兵からゆっくりと身体を起こした。彼の周りには、禍々しくも赫い瘴気が、ゆらゆらと立ち昇っているかのように見えた。
「ふふ……。生命の輪は砕けて尚、死して原初には還らず新たな生を得る……。しかし、数多の生を重ねれど……モーグ様……、貴方はいつお応えくださるのでしょう? ……いいえ、私が浅はかでした。問いは愚か者のする事……」
血膿の滲む傷病兵を慰撫していた血塗れの手が、白面をつうと撫ぜる。そのまっさらだった目元の下を、血指の跡が飾り立てた。
はだけた下衣から覗く太腿。その場所をどろどろと伝い降りる、赤や白の体液——。
彼は立ち上がると、ふらふらとままならぬ歩き方で呟いた。
「……ウフ、ウフフフフッ……。あぁ、貴方もまた、迷える仔羊なのでしょう?」
異常ともいえる光景に立ち尽くしたままの刑事に向けて、ヴァレーは血膿に汚れた手を伸べる。
「さあ、貴方の罪を告解なさい。ここでは、全ての罪は赦されるのです。この私が、真実の愛で深く、重く取り立ててあげましょう……。う……っ……!! うぐっ……げほ、がは……っ……!!」
面をもたげて咳き込む口元からは、どす黒い血が滴り落ちていた。
「……っ、は……。ああ……この身体も、もうここまででしょうか」
「……一体、何が君をそうさせてきたんだ?」
「……祝福が……導きの歓待が、嬉しくも待ち遠しいのですよ。身体は朽ちても、また新たな生で必ずや、あの御方は私を見出してくださる。新たな身体、そして変わらぬ真実と愛を……何度も、何度も繰り返し、深く、重く取り立てていただけるのですから……」
「新たな生? 死ねば皆、終わりだろう。いかれた世迷言を……っ」
「ふふ、貴方は何も知らないのですね。……形を変えて、幾度も交わった仲だというのに」
喘鳴と共に空のベッドに横たわる白面は、尚も淫靡に誘うよう、笑っていた。
この空間に生きているのは、今やヴァレーと刑事の二人だけだった。
刑事もまた、ヴァレーの語る言葉に奇妙な既視感を覚えていた。確かに——俺はこの身体を、隅々まで知っている。もしも、彼の言葉こそが真実であるならば? 理性は未だ強い否定を訴えていたが、本能は知っていた。相性は互いに抜群なのだと、記憶は無くとも全身の細胞が告げていた。
——気付けば、刑事は自らの欲を血の薔薇の泥濘に深々と突き立て、彼の肉体を貪っていた。その胎の内は深く熱く、全ての業を灼き溶かす瀆聖の盃のようだ。
堕教の聖人として名を馳せたヴァレーもまた、陶酔した瞳で姦淫の業に耽っていた。その肢体は次第にぐったりと力を失っていき、深く——また、重く、与えられる法悦に身をわななかせる。突如として、その目元が苦悶に歪み、羽のように揺れる白い睫毛が伏せられる。再び開いた薄金の瞳は虚ろに焦点を結ぶと、刑事を濃密に見つめ返した。そうして、最期の溜め息と共に、こう囁いた。

 

……Someday, we’ll meet again. —My lambkin.
……いずれ、またお会いしましょう。——私の貴方。