悦楽共犯者

 

「……ん、ここは……」

ひんやりとした岩肌と、目に入る鉄格子。
外からの光が入るような場所ではなさそうだ。
恐らくここは洞窟の中なのだろう。
鉄格子の向こうに置かれている松明からは仄かな灯りがもたらされていた。
辺りの様子を見るために立ち上がろうとしたのだが、思いがけない抵抗に身体を取られてがくりとバランスを崩す。同時にジャラジャラと耳障りな音が辺りに鳴り響いた。

「……なっ」

見ると、手には手枷がかけられていた。太い金属製のそれは目の前の鉄格子と鎖でがっちりと繋がれている。

「これは……一体……う、痛っ……!」

頭の後ろにズキ、と鈍い痛みが走る。
その痛みに、ぼうっとしていた頭も次第に覚醒していく。
そうだ、確か身支度を済ませてバラ教会へ戻ろうとした矢先に背後から頭を殴られて——

「ああ、起きたのか?」

鉄格子の向こうから男の声が響いた。

「……やはり貴方、だったのですね」

後頭部は殴られた衝撃でまだ鈍い痛みを訴えていたが、頭の方はすっかり意識と直前の記憶とを取り戻し、ようやく自らの置かれている状況が理解できた。

「何故、このような事を。私一人攫ってどうしようというのです」

「理由なんて聞いてどうなる?この状況、何方がどういう立場か、見て分からないわけでもないだろう。俺の気まぐれ一つでどうにでも出来るんだぞ」

男は座り込み、ダガーをクルクルとその手で弄んでいる。

「……やはり、貴い血の刺激が強すぎたのでしょうか。貴方には心の底からがっかりです。少しは見込みがあるのではないかと、そう思った事もあったのですがね」

男が言うように、この状況がヴァレーにとって圧倒的に不利であることに違いはなかったが、彼は自らの役割のためにも、決してこんな所で惨めに殺されるわけにはいかなかった。

「まだ置かれた立場ってものが分からないんだな。生かすも殺すも俺次第だと言っているだろう」

男は牽制か威嚇か、手元のダガーをチラつかせる。

「殺す事が目的なのでしたら、すぐにでもそうしていたはず。それをわざわざこうして生かして繋いでいるのですから、何故、と聞いているのですよ」

「そんなに知りたいのか?じゃあ先ずはその身体に教えてやるよ。お前が生きていなきゃ出来ない事をな」

男は冷たく笑って言い放つと立ち上がった。
その声を聞いてヴァレーは、目の前の男がかつて共に王朝への忠誠を誓い、睦まじく言葉を交わした相手ではないのだと思い知らされる。
鉄格子の扉が開かれ、大柄な男がぬうっとやってきた。

近づいてくる影の存在に、ヴァレーはその身を固くした。
おそらくは、手酷い拷問でも受けることになるのだろう。もし王朝の秘密を話せと言われても、絶対に耐えなければ。そして、ここからどうにかして生き延びる道を見つけなければ。

その恐ろしい想像に僅かに体が震え、彼の喉が小さくヒュッと鳴る。
男はその身体に手を掛けると、冷たい床へと仰向けに押し倒した。

「……ッ、う!」

後ろ手の手枷が背中に当たり、鋭い痛みが身体に走る。それを避けるように反射的に膝を立てて腰を浮かせた。

「ほら、無垢な巫女でもあるまいしこれでどういう事か分かるだろ?」

男の手が服の上から直接的にヴァレーの股間へぐり、と当てられる。
ヴァレーはこの時にやっと男の意図を理解した。
この男は自分を犯すつもりなのだ。
しかし、それと同時に彼は戸惑っていた。

「ぐ……っ、どうして、っ……こんな事なら別に……っ」

「チッ、こんな事なら別に、か。その貞操観念の緩さには白けるぜほんとによ」

男はヴァレーを組み敷いたまま、呆れたと云う風にその手を上にあげた。

「お前、俺になんて言ったか覚えているか?『王朝の騎士として”私の貴方”に特別な計らいです』だとかよ、『”私の貴方”にはとても貴い血がお似合いです』だとかよ、いちいち思わせぶりにしてな、馬鹿みてえに真に受けちまったんだ俺が。そんな時に見たんだよ。あの教会で黒いフードの男を相手にしていたのをな。それも一度や二度じゃないぞ」

「……ッは……っ? 覗きとは卑しい趣味ですね。私が誰と何をしようと、貴方に咎められる謂れはないでしょう」

「覗きも何も、あんな誰にでも見られる場所でおっ始めるんだからどっちがいい趣味してるんだか。それに、一時でも俺のことが特別だったんだろう? だったらここで全部忘れさせて俺のモノにしてやるよ。あの光景を見てから、ずっとお前の事をこの俺が組み敷いて啼かせてやるって決めてたんだぜ。俺のこの目を見ろよ、誰がこんな風にしたんだ?」

男はそう言い放つと、真っ赤に染まった瞳でヴァレーの事を見下ろした。

「……」

ヴァレーは忌々しそうに男の話を聞いていたが、少しだけ安堵していた。
どうも男は王朝への反逆者、という訳では無いようだ。先程までの最悪の想像は不幸中の幸いにしてか外れたのだ。
それに、自分の身体が目的であるならばすぐに殺される心配も無いだろう。
もし、この男の目的がそれだけなら懐柔し、再び堕とすことも出来よう。
道を外れた哀れな仔羊には相応の対処が必要だ。
——しかし、今主導権は此方にはない。この手枷もどうにか外す好機を見つけなければならないが、暫くは相手のペースに嵌って様子を探るしかないだろうか。

やや考えを巡らせてふう、と溜息を吐くと、仰向けで膝を立てたまま男を見上げ、白面の奥の目を男に向けて煽るように言った。

「言いたいことはそれだけですか。先ほどから口先ばかりですが、何を忘れさせてくれるのでしょう?」

松明の灯りで熱を灯したように見えるその金色の瞳は、既に先程までの混乱や恐れの色を宿してはおらず、挑発的で男の嗜虐心を強く揺さぶった。

「ほおう。その言葉、後悔するなよ」

男はそう言い捨てると、自らの下穿きを脱ぎ、その下半身を露出させた。
目の前に晒され、緩く立ち上がっている男のペニスを見ると、ヴァレーは目を瞠り、喉を鳴らした。ここまでの話で無意識のうちに彼の身体もその気になっていたのだろう。男がヴァレーの下衣に手を掛け、ずるりと引き下ろして局部を露出させると、彼のものもまた緩く熱を持ち始めていた。

「意外だな。いや、やっぱり慣れたもんなのか?こんな状況でやる気になるなんて話が早いじゃねえか。お互いもうすっかり楽しめるだろうよ」

男はヴァレーのものを握り込むと、その手を上下に動かし、性急に刺激を与え始めた。

「うっ……、く……」

手枷の縁が背に当たらないように腰を浮かせると、ちょうど男へ下半身を突き出すような形になってしまう。男の骨張ってゴツゴツとした大きい手に力強く擦り上げられると、その強烈な刺激に身悶えた。
更に手枷のせいで体勢に融通が効かず、うまく快感を逃すことができない。男の手が上下する度、身体がびく、びくんと与えられる快楽を拾って揺れてしまう。

「……っあっ?! 嘘っ……も、やめっ、出る……ッ、あぁああっっ!!」

ヴァレーは洞窟内に響くほど一際大きな声を上げてビクビクと身体を震わせると、男の手淫だけで達してしまった。
はあはあと、荒い呼吸がその面の内から漏れ聞こえる。

「お? さっきまでの威勢はどうした?こんなに直ぐに出しちまって先が思いやられるんじゃないか」

男が吐精でドロドロになった手をヴァレーの目の前で広げた。

「っ……はぁっ、今の、は、っ、……仕方ないでしょう、っ……」

ヴァレーはその手から目を逸らして身を捩ると、息も絶え絶えに訴えた。

こいつ、もしかしたら——と男は思った。

先程までは、全て計算ずくで放たれるあの甘い言葉にまんまと堕とされ、絡め取られ弄ばれていたのだろうと苦々しく思っていたのだが。
いや、実際のところ彼の言葉は殆どが打算である事には違い無いのだろう。
先程の「口先ばかりで」などと煽ってきたあの言はまさしくそういう意図のものだったに違いない。しかし、その言葉とは裏腹に今しがたこの手淫で達し、吐精した際の彼のその姿は、このような行為に慣れきった者から放たれる熟れた情婦のそれではなく、純粋に与えられた悦楽をその身に拾い上げ、身悶える生娘のようにも見えた。

「ほーう。出だしは余裕かまされて味気ねえセックスになるかと思ったけど、もしかしてめちゃくちゃ感じやすいのか?」

男は口の端に下品な笑いを貼り付けると、手のひらに吐き出された精液を潤滑油がわりに、彼の後ろを解していくことにした。
とりあえずペニスが突き込めればそれでいい、丁寧にしてやる必要もない。それに、男の方も早く直接的な快感を得たいこともあり、白濁に塗れたその指を後孔にずぶりと遠慮なく挿し入れた。

「ゔ……ぐうっ……」

ヴァレーは先ほどの性急に与えられた快楽と吐精後の脱力感でぐったりとしていたが、後ろに与えられた異物感にその身を固くした。
先程の太く、骨張った指がぐねぐねと内壁を這い進む感覚が身体に伝い、乱暴に塗り込まれた精液がぐち、ぐちゅ、と卑猥な音を立てるのが厭に耳につく。
ただ挿入を楽にするためだけのその情緒の欠片も無い行為にヴァレーは嫌悪の色を滲ませたが、この後にもたらされるコトへの想像で身体は小さく熱を帯びていった。

「も、こんなもんでいいだろ」

男はヴァレーが浮かせていた腰の下、その双丘を掴んで割り開くといきり立った自らのペニスを力任せに突っ込んだ。

「さっき脱がせた時から思ってたんだけどよ、結構肉付き良いじゃねえか、こんなとこで何食ってんだ?」

「なに、っ、痛っ……! あ゙、うっ……」

まだ弛みきっていない状態で無理矢理に突き入れられた後ろは抵抗と痛みを感じたものの、それは一瞬の事で、後には熱くて大きな質量のものが内壁をぎちぎちと押し広げていく感覚に襲われる。
その強烈な圧迫感に目には涙が滲んだ。

「あっ、クソ、やっぱりこの姿勢だと力が入って上手く挿れられねえな」

男はそう言うと体格に任せてヴァレーの上体をひょいっと抱き上げ、そのまま胡座をかいた自らの上に串刺しにした。

「ひっ、あ゙ぁあああっ?!!!」

「おっ、串刺しにされて腹の中ビクビク痙攣してるぞ。まだキツいがこのまま犯し続けて頭も身体もドロドロに溶かしてやるよ。どこまでその理性が保てるか見ものだな。とりあえず俺にも一発目出させろ、よ、!」

男はそう言うと、そのままヴァレーの腰を掴んで自らの身体の上で揺さぶり始めた。

内壁を男のペニスが押し広げていく感覚が腹の中に伝わる。あまりの圧迫感に喉がつかえ、息をするのが苦しい。身体も火照り、じっとりと汗が流れていく。男の肌と接触しているところが汗に濡れて擦れ、どうにも不愉快だった。

ぐちゅん、ぐちゅんとその律動が腹の中に伝えられるたびに下腹部に甘い痺れが走り、身体をビリビリと性感が襲う。
この体制では突き上げられ、男がその精を放つまで揺さぶられる他に成す術がなかった。
ヴァレーは目を閉じ、声を押し殺してその快楽にじっと耐えていた。

「……っう……ん、ッ、く、……ぅ……」

「もう感じてるんだろ? こうして解してやってたらすっかり力も抜けて呑み込みやすくなってきたからなあ? おい、このまま中に出しても良いのか?」

「……っ、ふぁ……」

「何とか言えよ! このっ!」

男が腰を掴む手にぎゅうっと力を入れて勢いよく突き上げた。

先程まで緩やかにぐちゅぐちゅと揺さぶられ、溶けるような快楽を与えられてふわふわと意識が飛ばされかけていた所に突然に暴力的な刺激を与えられる。
ばちゅんと一際大きく肌のぶつかる音と脳天に直接響くような快感にヴァレーは大きくその身体を仰け反らせた。

「あ゙ぁあああぁぁっ?!!!」

「お?! 腹の中ビクビク締め付けてきてんぞ、出して欲しいんだな?! おらっ、受け取れっ!」

「……あ、まって、まって、くださいっ、外に……!!」

男はその言葉を無視するように腰を掴んで打ちつけると、勢いよく一度目の吐精をその中へと放った。

「出る、出るっ、あ゙〜〜、全部飲み込めっ、! このっ!」

「もっ、話、ゔ……っ…ぐぅぅっ……」

腹の中に熱い液体が迸り、びゅくびゅくと打ち付けられていく。その刺激に合わせて下腹部を痙攣させているヴァレーを尻目に、男が満足そうに笑う。

「——はぁ、っ、どっちがどっちに先に分からせられるか、っ、見ものだな、っ」

男はそう言うと、まだ萎えきっていない自らのペニスをまたどちゅんと突き込んだ。

「っ゙、ゔぅっ……!!」

突かれる度に嬌声が漏れ、背中が弓なりにしなる。
ヴァレーの目からは、続けざまに与えられる強烈な快感にはらはらと涙が零れた。

「次、お前が主導権握っていいぞ、このまま二発目いけそうだからな。まあ寝心地は良くないがしゃあねえな」

男は結合部を繋げたままそう言うと、冷たい岩肌の床へと仰向けに寝転んでヴァレーを腹の上へと座らせた。
体勢を変えられ、自重で男のペニスをまた奥まで飲み込んでしまう。
軽くイったままの身体にとってそれは暴力的で辛い刺激だった。

「んゔっ……は……ぁっ、貴方、これ………っ、どうにか…なりませんか? っ、……うまく動けなくて、ッ」

そう言うと男に、繋がれたままの後ろ手を見せる。

「俺のことイカせられたら考えてやるよ。ほら、さっさと腰振れって」

「……っこの……ッ……」

「あ? なんだ?」

「……いえ……」

黙ったまま腰を前後に揺さぶると、先程放たれたばかりの白濁が腹の内で掻き混ぜられてグチュグチュと卑猥な音を立てるのが耳についた。
男は自ら動く気がないのか、その光景をじっと見つめていた。

「……っ、何か?」

「せっかく主導権握らせてやったのにダンマリとはつまらねえな」

「無駄口を叩いて、っ、こちらが……疎かになるよりはっ、良いでしょうっ……」

そのまま前後に動かし、充分に男のモノが大きくなったことを感じ取ると、上下に身体を揺らしていく。白濁が掻き混ぜられる音に加えて、ばちゅん、ばちゅんと肌のぶつかり合う音はことさら大きく洞窟の中に響いた。
出来るだけ余計な体力を消耗しないように、ヴァレーは尚も無言で律動を繰り返していく。
男の顔が苦痛に歪み出したのを見ると、内壁がぎゅうぎゅうと締まるように下腹部に力を入れ、男のペニスを性急に責め立てていった。

「……っはッ……はぁ、っ、……っう……」

「ぐ、あ、搾り取られるっっ…!!!」

男は余裕のない声を上げると、己の欲望をその腹の中へと容赦なく叩きつけた。
ヴァレーは男の精液がまた自らの中にどくどくと注がれていく感覚に身悶え、その面の内の顔を秘かな嫌悪に歪めた。一度中を汚されたのならもう手間としては同じことだ。抵抗する気力もなく腹の中にその欲望を放たれるがままにした。

「はーっ、はーッ……では、これ……っ、外してくれますね?」

「……っは、あ? 外して、こっちに何の得があるんだよ……っ」

「……先ほども、言ったでしょう、動きづらいので、っ、貴方の後ろに、手も回せませんし……」

男も余裕のある素振りを見せてはいたが、目の前の自らが執着し、焦がれた相手との行為に浮かされて次第にその本心が分からなくなってきていた。
無自覚で言っているのか、依然此方を搦め取るために甘言を弄しているのだろうか。

しかし先程の言葉一つで、後ろ手に繋がれている姿を手酷く犯すのも良いが、両手を自由にさせてしがみつき、首の後ろに手を回してはしたなく求めてくるその姿もそりゃあそそるだろうな、などと余計な事を妄想してしまう。そして男はやはりその妄想と欲望に抗えなかった。

「ほう、俺に抱きついてよがりたいってことか? そりゃ結構な提案だな。だが決して逆らうなよ、変な動きをしたらどうなるか分かってるだろうな」

「……ええ、力で貴方に敵うわけもありませんから。それに、まだ終わりじゃないんでしょう?」

「えらく従順になってきたじゃねえか。ま、どうせその言葉も全て打算なんだろうさ、信用はしてねえからな」

男はそう言うと手枷の鍵穴に鍵を入れてその太い金属製の輪を開いた。

「……っ、はぁ……」

ヴァレーは手袋を外すと、その手に纏わりつく汗を拭い、痛む所を労るように、自らの手首をさすった。何度も手枷に引かれていたために多少の痣になってはいたが、そう酷く傷んでいるわけでも無いようだ。

「じゃあ続きといこうか。このまま正常位で突いてやるよ」

「……」

仰向けで男に抱き込まれ、また後ろを乱暴に犯されていく。抽送を繰り返されるたびに後孔からは精液がぐぷぐぷと掻き出された。その程度の刺激ではもはや感覚を拾う事が出来なくなり、自らも強請るように腰を揺らすと男の背へと手を回す。

「はぁっ……あ、っ、……っう」

「命令されたわけでも、っ、ねえのに自分から積極的に動いて、っ、またそのケツの中に流し込んで欲しいのか、よっ、!!」

ぐぽぐぽと一層強く最奥を抉られると、突然ヴァレーの身体が大きく跳ね、押し出されるように二度目の射精感が彼を襲った。
反射的に男に縋り付くような姿勢を取ると、ビクンビクンとその身体を大きく揺らして精を吐き出してしまう。

「〜〜、〜!!!う゛……っつ……!」

「お、今のでイったのか? ッ、俺はまだだからな」

「……っ!? ……はぁっ……? も、まだ…無理、ですっ……て、身体っ、おかしくなる……」

「うるせえっ!! 指図すんなこのっ!! 俺に逆らったらどうなるかその身体にしっかり叩き込んでやる!!」

男は突き入れていたペニスを乱暴に引き抜くと、ヴァレーの身体をひっくり返してその背中を地面に押さえつけた。岩肌の床に突っ伏すような姿勢を取らされると、先程の吐精で敏感になっていた下半身が床に触れる。その冷たさに身体がびくりと跳ね、全身が粟立った。後孔のヒリつく痛みも逃すために、無意識に片膝を地に伏せて開くと、その穴から収まりきらない男の精液がごぽ、と溢れ出し、垂れ落ちては岩肌を濡らしていく。

男はその光景を目の当たりにすると、もう我慢ができなくなり、ドロドロで見るも酷い有様になってしまった目の前の後孔に自らのモノを遠慮なく突き挿れた。その体重を乗せられた男のペニスがぎゅう、と前立腺を押し潰すと、ヴァレーの口から上擦った声があがる。

「う、あ、あ、あ゙!っ、?!!!!」

「お、ここか、っ、頭ぶっ飛ぶまで押し潰してやらあ!!」

「ゔ、ゔぅ〜〜〜、っ、あ゙あっ、そこ、っ、おかし、っ、あ゛、むりっ……!!」

「おらっ! 全部忘れろよ、俺のことだけ考えろ! ほら、誰のチンポでよがってるんだ? 俺でしかイけない身体にしてやるからなっっ!!!!」

床に突っ伏したまま男の全体重を掛けて押し潰され、ヴァレーはその圧迫感に窒息しそうになっていた。
何度も執拗に前立腺を突き込まれ、そこに与えられる暴力的な快楽に全身を支配されていく。指先が、足の先までもが快感でビリビリと痺れる。身体中にバチバチと電流が走り、脳天へと突き抜ける。脳内の快楽物質が暴走して全身に過剰供給されているようだった。

「どうだ、っ、もう俺のじゃないと満足できねえ、だろうっ!!! ずっと、ずっと俺の事だけ呼んでろよっっ!!!!」

「〜〜〜〜!、! っッ、あ、っ、あ゛、うあ゛ぁぁあっ!!!!」

◻︎◻︎◻︎

全ての行為が終わると、流石の男も力を使い果たしたのか大の字になり、荒い息を整えていたがそのうちに寝てしまった。
ヴァレーの方もすっかり疲れ切って息も絶え絶えではあったが、身体の痛みを拾いながら辛うじて意識を手放さずにいられた。横の男の呼吸音を注意深くしっかりと確認し、完全に男の意識が覚醒しないところまで落とされた事を見届けるとふーっと大きな溜息をついて鉛のように重くなった身体をよろよろと動かす。

——長かった。体感だと半日くらいは余裕で組み敷かれていたのだろうか。
だが、幸いにして王朝の貴族たちの方も並大抵の体力では無いため、行為自体を長く続けられることにはまだ幾ばくかの耐性があった。

「——ツっ……」

ずきずきと痛む後孔と溢れ出る男の精液、腹の中の不快感に顔を歪めながら出来るだけ音を立てないようににじり寄ると、男の懐に匿されていたダガーに手を掛ける。

そうして、ヴァレーは無言で男の喉を一息に切り裂いた。

岩壁に身体をもたれ掛けさせてまた大きく息をつく。
この男、褪せ人だとは言っていたが、赤く塗り変えられたその瞳にはもう祝福の光は宿されていなかった。きっととうに導きにも見放された存在だったのだろう。

首元からは鮮血が迸り、男の身体がガクガクと揺れる。その赤い目が見開かれると、訳もわからないと言った表情で此方を見た。

「おや、気づきましたか? 今この瞬間だけ、貴方にはとても、貴い血がお似合いですよ」

男は迸る血飛沫の向こうに、先程まで完膚なきまでに屈服させ、自らの身体を覚え込ませて隅々まで汚したはずのその純白の姿を見た。

——なんだ? いや、クソっ、やられたんだ。堕とせた、征服できたと思った自分が甘かった。いや、違う。こっちの意識がぶっ飛ぶまで俺がハマり過ぎたんだ。見誤った。とんだ大馬鹿野郎だ。口や鼻の中にも血が溢れて息ができない、声ひとつ出せない。もう指も動かせない。

目の前の白面の男は口元に指を当てると、その奥の目でにっこりと微笑んだ。

頭の中をどす黒く赤い血にじわじわと塗り潰され、意識を手放す直前に。
あの低く、纏わりつくようなざらついた声と独特の甘美な笑い声が男の耳を侵していった。

存分に愉しみ——そして、後悔していただけましたでしょうか?

最期に私の貴方、と聞こえた気がしたが。
それはいつからか自らに向けられなくなっていた『特別』な言葉に執着し、追い縋った男の。
その哀れに儚い末期の幻聴だったのかもしれない。