星灯りの下で

「ヴァレーさんは、星を見る事はありますか?」
「星——ですか」
ヴァレーは自らの敬愛する王朝に浮かぶ満点の星空を思い浮かべると、「そうですね。よく見ますよ」と白面の奥の瞳で柔らかに微笑んだ。
辺りは既に、薄闇に沈み始めていた。訪問者からの問いかけを軽くあしらいつつ、そろそろランタンの油が切れてしまうだろうかと、およそ会話とは関係のない事を考える。
「ヴァレーさんも星を見る趣味があるとは、なんと素晴らしい事でしょう! 見ての通り、私は魔術師の端くれです。星に運命を見出す者、星見の一族として生まれ——輝石の魔術を修めた先祖の意志を継ぎ、この地に呼び戻されました。しかし、お恥ずかしい事に、星を見る意味など長らく忘れてしまっておりまして。先日ある方と対話をした時に、新たな知見を得たのですよ」
やや興奮気味に、身振りを交え語る姿。ヴァレーは白い仮面の下から、つまらなさそうにそれを眺めていた。この男の話に、さして興味などない。一日中立ち続けた脚は退屈に痺れを切らし、じくじくと鈍い痛みを訴え始めていた。
星見の男は、尚も続ける。
「——それは、輝石の魔術についてでした。輝石の魔術とは星と、その生命の探求なのだそうです。輝石には星の生命の残滓が宿っており、それこそが、我ら星見の本質なのだと。……それを聞いて、私は深く恥じ入りました。星を見る一族に生まれながら、いつから私は空を仰ぐことを忘れていたのだろうと。そして今宵こそはと思い立ち、このリエーニエの星空を見上げた時——。自然と、ヴァレーさんのことを思い出したのです。星を見るなら、ぜひ貴方と……。そう思うと、居ても立ってもいられなくなって。自然とこちらに足が向いてしまいました」
「……ああ、そうでしたか。それはそれは、光栄なことですね。ありがとうございます」
——星を見る趣味など、一度として口にした覚えはない。だが、訂正する事すら億劫だった。星の探求をしたいのならば、一人ですれば良いだろう。魔術師という生き物は、どうしてこうも回りくどいのだろうか? ヴァレーは、かつて関わった者たちを頭の中で拾い上げて思った。わざわざ辺境なこの場所に来るという事は、この男の目的は別のところにあるのだろう。ヴァレーは小さく息を吐くと脚の痛みを紛らわせるため、重ねた手をきつく揉み込んだ。
しかし、先ほどの男の言葉が妙に引っかかる。それは、「新たな知見を得た」という事。このうだつの上がらぬ男に影響を与えた者がどこの誰かは知らぬが、己の手駒に他者の手が加えられるというのは不愉快極まりない。
そう、この星見はヴァレー自身が試しを行い、その力を認めて直々に任じた純血の騎士である。そして彼を籠絡する過程において、身体的な接触を利用した、ごく親密な関係を築き上げてきた。この星見の男は今、ヴァレーの身体なしには生きられない筈なのだ。星の探究だのと高尚な事を述べてはいたが、ここを訪れた理由もつまり、下半身の欲求に抗えなかったという事だろう。裏切りなどとは無縁の男だと踏んではいるが、先ほどの違和感は見過ごせない。
ヴァレーは瞳に熱を込めると、星見の男にしっとりと話し掛けた。
「私の貴方。こちらをご覧なさいな」
「はい」と応じ、顔を上げる男に手を伸べる。側貌の稜線へとしなやかに指を添えて、その瞳をじっと覗き込んだ。
「——ああ、素敵な目ですね。貴方の瞳の輝き、鮮やかな血の滴るような艶めきはきっと、最上級の輝石にも勝る美しさでしょう。貴方はもう既に、その探求を終えているのですよ。貴方こそが、私の探し求めた純血の騎士なのですから……」
そう言うと、ヴァレーは男の首元にするすると手を回していく。決して身体は密着させないよう。あくまでも軽い触れ合いであるという風を装って。
星見の男は、瞬きすら忘れてしまうほどの熱量で放たれたヴァレーの蠱惑的なアプローチにびりびりと刺し貫かれた。
「ヴァレーさん……」
星見の手は期待を込めて、下心を隠さずにヴァレーの腰を抱き寄せようとする。だが、ヴァレーはその動きをを見透かしていたかのように、するりと身を躱した。
「……あっ」
小さく、落胆の声が漏れる。実体を抱く事のできなかった腕は、薄闇の中で虚しく空を切った。
「今日は、その……」
歯切れの悪い言葉が、冷たい風と共に飲み込まれる。既に、夜の帳は下りていた。辺りが暗くなるにつれ、星々の煌めきが空に舞い、魔力の残滓を纏った虫たちが飛翔する。互いの姿は月明かりと共に、淡く幽玄に浮かび上がっていた。
「——でしたら、見せつけてしまいませんか?」
沈黙を破ったのは、ヴァレーだった。言葉の意味を図りかね、惚けた声を上げた星見をよそに彼は続ける。
「私たちが共に星を見るのではなく。貴方がお好きな、この星空に」
言い終えると、ヴァレーは自らの身体を艶めかしく撫で降ろした。その妖艶な仕草に、星見の男はようやく、先の言葉の意味を理解した。そして顔を赤らめると、「あ」だの「え」だのという音を発して狼狽える。それを見て、くすくすと笑う白面の男——。
ヴァレーは星見の前に膝をつくと、傅くようにゆっくりとしゃがみ込む。
唐突に下半身へと身を寄せたその仕草に、星見は戸惑いを隠せなかった。だが、何のことはない。ヴァレーは足元のランタンに手を伸ばすと、懐から油差しを取り出してそれを灯しただけだった。
油と煤の燻る、やや刺激的な匂いの煙が熱と共に立ち昇る。
それはつんと鼻腔を掠めて、星見の心を侵していく。
——今やこの匂いを嗅ぐと、即座にバラ教会を、そしてヴァレーの事を思い出す。祝福からは少し遠い廃教会。近づく度に、律儀にふわりと灯されるランタンの灯り。元々は、この廃教会の内部にも祝福の光が湛えられていたのだろう。だが、白面のヴァレー、或いは彼の王朝の者たちが、この廃教会を血の汚泥に塗り替えてしまった。彼らが信奉するのは血の王朝、仕えるは未だ見ぬ血の君主。最後の試しを終えた時に、純血の騎士に任ぜられた。そうして、「鮮やかに艶めく、血の滴るような瞳」を受け入れて、彼と肌を交わす関係になった。この狭間で欲を発散できる相手など、そう見つかるものではない。
正直なところ、星見はもう我慢の限界だった。白面の姿を思い浮かべる度に、溜め込んだ欲望が膨れ上がってはどろどろと流れ出していく。心臓の鼓動は煩いほどに高鳴り、待ちかねた刹那的な享楽と、肉体の快楽への期待が募る。
星見は再び、腕を伸ばした。ヴァレーはもう悪戯に身を翻す事はせず、その腕の中へと身を委ねた。
ひんやりとした、湿っぽく霧深いリエーニエの空気が肺の奥を満たしていく。
星見は教会前の手頃な一枚岩の上へと彼を導いた。教会の中でもよかったのだが、あちらこちらに蔓延る血肉と泥濘の中で致すのは心理的に憚られた。そのため、周りに誰もいないタイミングを見計らってはこの岩の上、青天井の下で堂々と行為に及んできたのだ。
星見は夜空の下、躊躇いなく下衣を脱ぎ去った。白面もその動きを見るやブーツを脱ぐと、自らのベルトに手を掛ける。星見はそれを遮ると、彼の代わりに下衣を引き下ろそうとした。
「もう……。貴方、そんなにがっつかないでくださいな」
ヴァレーは恥じらいを含んだような声音で岩の上に下肢を晒すと、しなを作って座り込む。乳白色の星々の光が柔らかく降り注ぎ、彼方からは巨大な黄金樹の輝きが、またその落ちる金色の葉と、リエーニエの地特有の魔力の残滓が戯れるように其処彼処へと舞っていた。その幻想的な——絵画のように美しい光景の中で。自らが神聖視し、探求の目的とした星空の下で。今からこの彼を好きなだけ犯して淫らなセックスを始めるのだと思うと——。その瀆聖的な行為の想像だけで絶頂してしまいそうだった。
「……俺もう、我慢できません……!」
そう言ってヴァレーの脚を割り開くと、ひんやりと冷たくなった肌を重ね合わせる。
表層の冷たさは一瞬で、肉の下に通う熱がじわりと滲み、互いを温め合う。擦れる太腿や、絡み合う脚の感触が生温くて心地良い。
男は自らの欲望がヴァレーの肌をなぞる度に、より熱く、硬く張り詰めては先走りが滲み出てしまうのを感じていた。ヴァレーはそれを見て、くすくすと笑う。
星見のそれは、少し頼りなさそうな彼の外見からは想像も出来ないような大きさを誇っていた。それは形状もさることながら、若さ特有の持続力や回数にも申し分がない。その想像に、ヴァレーはごくりと喉を鳴らしていた。先程まではこの星見を目の前を飛び回る矮小な蝿だと感じていたのに。頭の回路がこちらに切り替わっては話が別。あからさまに他の場所よりも体温が高く、粘液にぬめるそれが剥き出しの下腹部に擦り付けられる感覚。
今から自らの体内が、この太く逞しい雄に前後不覚となるまで蹂躙されるのだ。その行為の先、快楽を思い浮かべてしまった身体は正直だった。ヴァレーは自らの熱を持つ中心、その控えめな勃ち上がりを、星見に向けて開帳する。
星見は手袋を口に咥えて脱ぎ捨てると、腰に下げていた小さな油壺から油を取り、ヴァレーの中心に手をかけた。
「ん、ふ……っ」
鈴口を親指の腹でこじられ、上下に竿をぐちぐちと扱かれる。往復ごとに増幅していく快楽、鋭利に突き抜けるようなむず痒い性感にヴァレーは身悶えた。
星見は頃合いを見計らうと、自身の滾りをその場所へと重ね合わせる。そうして、互いのものをひとつにして再び扱いていく。
「っ、ん、ぅ……っ、ふ……」
ヴァレーの腰はひく、ひくんと小刻みに、そして不随意に痙攣していた。喉奥からは鼻に掛かったような甘ったるい鳴き声がひんひんと漏らされている。その手が星見の背へと縋るように回され、装束をぎゅうと掴んだ。男は互いのものを更にきつく握り込み、ぐにゅりと密着させたまま、竿同士を絡み合わせるように上下させている所だった。敏感な先端を手のひらで撫で回し、時おり指で鈴口をぐにぐにと押し潰しながら、更なる刺激を加え続ける。
白面の喉奥から溢れる声は、次第に熱を隠さぬものへと差し替えられてゆく。身体は与えられた刺激が軽い頂点に達する毎にビクビクと仰け反っては、快楽の硬直を迎えていた。
男はヴァレーが感じているであろう姿を見下ろしながら、軽い優越に浸って言う。
「どうですか? お互いのものが擦れて……っ、……すごく、気持ちいいでしょう? ヴァレーさんも、溜まってたんじゃないですか?」
「……っ、うふふ……っ。……ええ、私も貴方がいらっしゃるのを……ずっと、お待ちしていたのですよ……ん、ぁあ……っ……」
「……っ、え…!?」
星見の男は、予想もしなかった歓待の言葉に戸惑い、面食らった。いつもいつも遠回しに誘いをかけてはすげなくされるところを半ば無理矢理に懇願し、どうにか行為の許しを得る事が殆どだったのに。先程の誘いといい、今日の彼は一体どうしてしまったのだろうか——? 自らが焦がれた相手に熱っぽく誘われて、そして雄としての役割を求められる嬉しさを噛み締め、無意識のうちに、つい手の動きを止めてしまう。
それを受けてか、またくすくすと笑い声が降る。
「……っ、ふふ、どうされましたか? 貴方。手が止まっていますが……お手伝いしましょうか」
ヴァレーはされるがままであった身体をを起こし、その手を男のものへと伸ばす。指を妖しげに這わせては陰茎を握り込むと、慣れた手つきで緩急を付け、上下へと扱き始めた。
「……っ、あっ、……うぅっ……!」
星見はつい声を漏らした。先程までの兜合わせで、既に性感は高まっている。このままではあと少しと持たずに射精してしまうだろう——。だが、先程の彼の誘い、そして自分を求められているという事実に雄としての生存本能が、空打ちではなく生身の身体に種付けたいのだと強烈に訴えかけていた。男同士の行為が決して実を結ぶことなど無いと分かってはいても、身体は溜め込んだ精を彼の内奥にぶちまけようと狙いを研ぎ澄ませてふつふつと血を滾らせる。
「……うっ、ヴァレーさん、っ……!!」
星見は自らの雄が制御不能になる前に、どうにか彼の手から自身を引き抜いた。
ふと見た白面の中から、物足りなさそうな視線が覗く——。星見の理性は、それと共にもう跡形もなく消し飛んだ。彼は性急にヴァレーの身体を押し倒すと、その尻肉の間へ自らの剛直を擦り付ける。中心で赤く膨れた窄まりはまだ解されてもいなかったが、それは外部からの侵入を受け入れやすそうに、縦にしっとりと伸びていた。互いの体液の混ざりにぬめる指を、その秘所へと挿入しては欲のままに掻き回し、入り口の伸縮具合を確かめた。数本を易々と呑み込んで熱くうねる内壁。それは既に使い込まれていたかの如く、妖しげに男を誘っている。
「……もう充分じゃないですか。全く、どっちが色狂いだか……!!」
「貴方……っ、お待ちなさ……っ、まだ——」
ヴァレーは何かを言いかけたが、その言葉が終わらないうちに、既に臨戦体制を迎え聳え立っていた星見の剛直は柔らかな尻たぶをかき分けて、滾る肉厚の質量をぐぷぐぷと侵入させ始めていた。
「……っ、ゔ、あぁぁあぁ!?」
まだ完全には慣れ切らぬ場所に押し入る肉と拡張の痛み。ヴァレーは目を見開くと、一際大きな声を上げた。男のそれはやはりあまりにも大きく、長く、強く圧迫感を伴うものだった。身体を弛緩させるために息を吐くが、同時に押し潰される声、生理的な涙がぶわりと押し出される。だが、先の男の言葉通り、潤滑油のぬめりも相まった秘所は存外容易に男のものを呑み込んでしまう。高められる感度に従って内壁は収縮し、弛緩し、ヒクヒクと痙攣しては男の竿を締め上げた。
星見はその上質な締め付けを、全身で味わっていた。突き挿れては扱く度、ビロードのように心地のよい感触の肉壁が奥へ奥へとうねるように纏わりつき、この白面の男さながらに妖しく吐精を誘いかける。
だが、当の本人は不満ありげに男を睨み付けると、こう言った。
「……貴方、私の手では……っ、満足できませんでしたか……?」
「いえ、そういう訳では……!」
やや拗ねたような口調に星見は焦った。手淫で達するのが勿体なかったのだと正直に言うべきか悩んだが、それでは余計にこじれるような気もした。なんなら、「次回からは自分でおやりなさい」と突き返されてしまう光景がありありと目に浮かぶ。ヴァレーが乗り気でない時は、大抵が手淫や素股で抜いてもらっているのだ。こうして直に肌を合わせ繋がり合うのは実に数日ぶりの事。故に、決して彼の機嫌を損ねる訳にはいかなかった。
星見は腰を打ち付けながら、快楽に回らない頭で逡巡した。だが、言葉ではどうにも埒があきそうもない。ならば、快感をぶつけて黙らせてしまうのが一番だろう。
星見は腰を掴む手に力を込めると、ヴァレーの弱いところを無我夢中で突き上げた。
反り上がったペニスが腸壁の向こう側のしこりを掠める度に、甘やかな声が漏れる。組み敷いた身体は快楽を求めて悶え、貪欲を隠さずに感じ入っているようだ。星見は夢中になって腰を振り続けた。角度を変え、またその律動に乗せる体重を変えて、ヴァレーの体内を貫き、良く啼くところを探し続ける。
「〜〜〜ひぅ、っ……、うあ゙、あ゙、あぁあ……っ!!」
溢れんばかりの艶を含んだヴァレーの濁声を聞いて——星見の男は、いつになく感じているのだろうか、と思った。彼特有の白い睫毛に囲われた薄金の瞳は焦点が合わず、涙を溜めてどろりと蕩けきったまま。いつも軽くあしらい、澄ました目とその声でつれない対応をされるにもかかわらず——。ひとたびこうして悦楽的な行為に没頭させれば、官能的で性的に飽くことを知らぬ淫らな本性を露わにする。星見はその痴態を見るのが堪らなく好きだった。
「……ん、うぅっ、ぁ……っ、は、……あ……」
挿入のペースを落とし、緩やかに与える快楽。漏れ聞こえる艶やかな嬌声と、潤んだ瞳。熱く溶かされ星見のものに絡みつく内壁と、ねだるように打ち付けられる腰の動き——。
星見の男はこの瞬間、彼の全てを自分だけが甘受している喜びに満たされた。その事実を今、この星空の下だけでなく遍く全ての存在に見せつけてやりたいと、そんな馬鹿げた想像が脳内を埋め尽くしていく。
星見は出来るだけ長く繋がっていられるよう、突き挿れたものを押し付けるように掻き回す。その動きと共に、ヴァレーの瞳が熱っぽい色に揺れる。彼は軽く身を捩ると、繋がり合ったままで腰を高く突き上げようとした。星見の男は、その意図を即座に理解する。一度ペニスを抜くと、射精感が少しでも収まるようにと、軽く一呼吸を置いた。
「──っはぁ、っ、後ろから、っ、もっと、強くして欲しいんですね?」
「……っ、ええ、……っ、ですからもう、貴方も我慢なさらないでください……っ」
ヴァレーは上体を伏せて尻を突き出すと、余裕のない声で男に行為の続きを求めた。
星見はあからさまに蠱惑的なその光景を、固唾を呑んで凝視した。そんな事、言われずとももう我慢できる筈がない。すぐにでもこの膨らんだ欲望を一滴残さず受け止めてもらわなければ気が収まらないのに。突き出された尻の間には、先程まで散々に男を咥えて締め上げていた性器が淫らに誘いを掛けていた。
再び、星見はヴァレーと深く繋がった。
尻の谷間に全ての体重を預け、深々と肉欲を重力に任せ呑み込ませる。鷲掴みにして引き寄せた腰。尻たぶと太腿がぶつかる音が静寂を裂き、反響するそれが猥雑に鳴り響く。
「〜〜〜っ゙あ゙っ、あ゙っ、あ゙っ、ゔ、ああぁ……っ!!」
ヴァレーの手は快感を逃すためか、何かに縋ろうと悶えていた。だが、岩肌の上に掴むものはない。勢いを増す腰の打ち付け、そして男のペニスが腸腔の最奥を押し潰す──。
ヴァレーもまた、頭の奥底から沸き上がるゾクゾクとしたざわめきに襲われていた。今や全身の細胞が、その時を待ち侘びているようだった。男は最奥に感じる肉の抵抗をぐちぐちと押し込みながら、その感触を愉しんでいた。戯れのような寸止めの行為に、ヴァレーは堪えきれずに叫ぶ。
「……っ、もう、我慢なさらないでと言ったでしょう……!!」
「あ、すみません、……っ、つい……!!」
星見としては、我慢をしていたつもりはなかった。だが、ヴァレーにはもう余裕がなくなってしまっていたのだろう。そう思うと、嗜虐心がいっそう強く煽られる。
そうして掛けられた言葉のまま——星見は遠慮なくヴァレーの結腸弁をぶち抜いた。
その瞬間、ヴァレーの全身がびくびくと跳ね上がる。
互いの身体には、すさまじい性感が襲っていた。
ヴァレーの頭は普段犯されることのない場所への急激な刺激にハレーションを起こし、視界は星屑が煌めくように幾度も瞬いた。どうにかなってしまいそうなほどの鮮烈な性感に、もう何も考えられなくなっていく。ぐぽぐぽと最奥を犯された身体の神経は焼き溶かされ、深く溺れる。もう、込み上げる欲を押しとどめる事などできなかった。
「……っあっ!、もう、ダメです……ッ!︎ ヴァレーさん、っ、一番奥で全部……飲み込んでください……っっ!!︎」
「〜〜〜っ、あ゙、あぁっ、貴方……っ、もう、や……あ、ゔ、ぐうぅ〜〜……っ!!︎」
数日越しに放たれた欲望が、最奥へと注ぎ込まれる時。ヴァレーは体内を埋め尽くしている肉の痙攣を感じると、それに感応するように自らの精を吐き出した。腸壁の奥が絶頂と共にビクビクと長く小刻みに痙攣しては、貫かれる竿の最後の一滴までをも余すところなく搾り取り、柔らかに締め付けては受け入れ続けた。

——それから数時間。
ようやく二人は岩肌の上に身体を投げ出し、行為の後の脱力感に身を委ねているところだった。目の前には満点の星空。数多の星の下で濃密で淫らな行為に耽っていたが、星を見たのは今宵この時が初めてであっただろう。
星見は呼吸を整えながら、ヴァレーに向けてぼんやりと視線を投げかけている。それに気付いたヴァレーは彼の顔に手を添えると身を寄せて、吐息混じりに囁いた。
「──っ、はぁ……。これで貴方は星を見る度に、いつも私の事を思い出していただけますね?」
まだ事後の熱感冷めやらぬ、上気した色香を纏ったままの声。男の顔に手を添えたまま、白面の奥の瞳は未だ妖しく濡れていた。
──実のところ、星見は未だ迷っていたのだ。
黄金の導きは、まだ消えてはいなかった。微かに残る導きに従い、エルデの王となる道をゆくか。それともヴァレーの言うように王朝の騎士となり、その手を血で染める同胞狩りの道をゆくか。
しかし今、星見は全身に感じていた。自らの全てが白面のヴァレー、彼と共に繰り返される秘めたる甘美な行為によって塗り潰され、上書きされていく事を。
水面に映る赤い瞳を見ても、手袋の下にある青ざめて疼く指を見ても、そして、自らにとって最も神聖であった、この星空を見上げても。
齎される全ての導きが毒々しくも美しいひとつの色へと収束し、塗り替えられていく。
それはかつて、永遠の女王のために建てられたこの廃教会のように──。抗えぬ鮮血の泥肉に覆われては、新たな役割を与えられたのだろう。星見として、その探求者としての血と肉は彼という名の血蝿と蛆に食い荒らされて一欠片も残さず綺麗に白い骨となり、もうすっかりとその本分を失ってしまったのだ。

夜はどんどんと更けていく。
運命はもはや、この夜空にはなかった。
星々の灯りに照らされたまま、目の前の艶やかに寛げられる肢体を見下ろして言う。
「なら、夜通し見せつけてやりましょうよ。夜明けまで、まだ時間はたっぷりありますから」
そうして星見の探求は、今ここにすっかりと幕を下ろしたのだった。