伴侶のつとめ(r18G 寄稿文再掲9.14) - 2/2

 

——えーっと、何? 俺、ほんとに王になったの?
それじゃこの世界、俺が色々決めちゃって良いってこと? すげーっ、天下じゃん! 王になってやりたい事かあ。やっぱり、王には伴侶が必要だよね? ほら、道中で出会った神人やデミゴッドたちも俺に伴侶になれだとか、自分の伴侶がどうだとか言ってたし。マリカも子沢山だったし、王が率先して子を成さないと国も繁栄しないでしょ。

よし、そうと決まれば早速、俺も麗しき伴侶を迎えにいかなくちゃ。

「ヴァレーさん、久しぶり! 元気にしてた?」
「あ、貴方……ッ」
「生きててくれてたんだね。良かった〜。王朝で戦った後、とりあえず回復は掛けてみたんだけど、ずっと起きないからヒヤヒヤしてたんだ。お世話はボックに任せきりだったけど彼とはどう? 仲良くなれた?」
「ここ、は……?」
「王都だよ。元女王の閨だって。見てよこれ、ほーんと、でっかいベッドだよね」
「……」

ヴァレーは無言のまま、ぐらついた身体で起きあがろうと身を捩った。だが、手足は重い鎖に拘束されて動かす事もままならない。自由の効かない状況に、じろりと男を睨みつける。

「そんな怖い顔しないでよ〜。ああ、そうそう。これ、ヴァレーさんに」

男は飄々とした様子で薔薇の花束を模したメイスを取り出す。女王の寝台の上に座り込むヴァレーに傅くと、恭しく差し出した。途端、ヴァレーの目の色が怒りを帯びたものへと変わる。

「取り上げておいて、今更、何を……!」
「この狭間で、これより綺麗な花束も無いでしょ? ドミヌラの花冠も一緒に持ってくれば良かったかな。それか、誓布を二人の血で染め合うのも良かった? ……ねえ、ヴァレーさん、俺の伴侶になってよ。俺、王になったんだ。だからさ、これからは何もかも俺が決められる。ヴァレーさんの望む王朝だって、開いてあげられるよ」
「この私が……誰の伴侶ですって? 貴方、気でも触れたのですか?」
「もちろん、正気に決まってるじゃん! だってヴァレーさん、俺にずっと『私の貴方』って言ってくれてたでしょ。誓布を巫女の血で染めた時なんか、喜んで俺に抱かれてくれたよね」
「それ……は……」
「そうそう、それからモーグ様はもう居ないことも教えてあげたし。だからさ、もう何も気にせずに俺だけ見てくれて良いんだよ」

その言葉にヴァレーの目は見開かれ、先ほどよりも更に激しい怒りに歪んだ。

「……この、卑しい劣等風情が……!! 軽々しくモーグ様の名を口にするなど……ッ!」
「うわっ、ヴァレーさんのそれ久々に聞いたよ。でも王に向かって、その口の利き方は無いんじゃない?」
「……形骸化した王など、壊れきったこの世界にお似合いです。王となれど、貴方はやはり巫女無しの劣等。モーグ様の足元にも及びません」

白面から続けざまに放たれるのは、嫌悪を隠さない棘のある言葉。だが、それが僅かな恐れを孕んでいる事を、男は見逃していなかった。

「ふーん。ま、良いけど。何を言われても俺の気持ちは変わらない。ヴァレーさんは俺の伴侶だよ」
「……ッ、まだそのような事を……」
「だって、力も意志も愛も、モーグ様より持ってるのにさ。そろそろ俺に乗り換えてよ。何処に立てる操も無いんだし。この世界で王の伴侶となり、子孫を繁栄させるなら愛し合わなきゃ。俺は人間のやり方しか知らないけど」
「愛し合う? 子孫? 貴方、何を言って……? 私は、男で——」
「ッ、あはははは! 当ったり前じゃん。俺だってそこまで馬鹿じゃないよ」

笑いながら、男は先端が細長く伸びた金色の容器を取り出した。

「はい、これ見て。これはね、魔法のお薬。よく分からないけど、産まれ直しの幼生だかを使った特製らしいよ。俺のお抱え魔術教授にそういうの得意なのがいてさ。相談して特別に調合してもらったんだ。俺もその人の願いを叶えてあげたからwin-winの関係ってやつ」

顔の横に二本ずつ、合計四本の指を突き出した褪せ人は満面の笑みで続ける。

「……で、これを使えば意図した身体の構造を作り替えることもできるんだって! つまり、子宮が出来れば男でも妊娠しちゃうってわけ。直腸の奥から分化した器官が子宮になるとかなんとか。ねえ、そこってヴァレーさんの大好きなところだよね? バラ教会でいっぱい愛し合ったの覚えてる? 立ちバックで奥ぶち抜いてぐぽぐぽ突かれたらガニ股アクメで腰落として汚喘ぎしちゃうド淫乱おじさんだったじゃん」
「……ッ」
「……で、完成した雄子宮にたっぷり種付けしたら男なのに受精しちゃうらしいよ。すごいよね? 人体の神秘!」
「え、は……っ??」
「ヴァレーさん神秘高いんでしょ? だったら男で妊娠できても全然不思議じゃないよ! よかったね〜」

身動きの取れないヴァレーの元に、じりじりと褪せ人が躙り寄る。

「これ、別に口から飲ませなくても良いらしいから」

拘束はそのままに、褪せ人は力ずくでヴァレーの双脚を開かせた。

「貴方、ふざけるのはいい加減に……ッ?!」
「——ここさえひん剥けたら、もうおしまいってこと」

抵抗虚しく、剥ぎ取られた下半身が露わになる。双臀の谷間に見える窄まりに薬瓶の先端がつぷんと押し込まれると——中の液体がヴァレーの直腸内にとぷとぷと流し込まれていった。

「う、ぁ、中、冷た……ッ、貴方、や、め……ッ」
「馴染むのに一晩は掛かるかな? お薬、漏れちゃったら困るからこのまま蓋しといてあげるね」
「……ッ、待ってくださ……ッ、奥、何か……ぁ……ッ!!」

いつしかヴァレーの腹の中には渦巻くような痺れが広がり、骨の奥深くにまで灼熱感と気怠さが染み込んでいった。筋肉が収縮し、腹の奥がぐねぐねと蠢いていく。後には身体を包み込む不快な感覚だけが残される。

——それから一夜が明け、男は再びヴァレーの元に姿を現した。

「ヴァレーさん、どう? 本当に雄子宮できちゃった?」

ぐったりしているヴァレーの下腹を男の手が無遠慮に揉みしだく。

「……ッ、は、ぁ……」
「うーん。外からじゃ触っても分かんないや。じゃあ早速、狭間の王との種付け子作り本気セックス、いってみよっか!」

その言葉に、ヴァレーの意識が取り戻される。一晩中味わい続けた身体の変化、そしてその変化の目的である行為の帰結——自らが子を孕むおぞましい想像に、ぐらりと眩暈がした。

「どう?気持ちいい?? 奥、ずっとびくびくしてるよ」
「……っぐ♡イくぅ゙……ッ、!!♡んお゙ッぉおお……♡♡――……ッッ♡……あは、ひあ゙っ♡んぁあああ……!!そこ、やめッ、も、あ゙、あ゙ッ……♡はぁっ♡はっ、んお゙ッ?!♡♡……はッ、あ゙♡……ッひ♡ィ゙いっ……!!」
「あー、愛する伴侶との本気セックス最高♡ おっ、ここの突き当たりかな? 前みたいに結腸ぶち抜いて中出しし放題なのも良かったけど、新しく出来たお部屋にたっぷり種付けて欲しいよね? 王の種なんだからちゃーんと着床してよ。ほら、いつもお尻で美味しそうにザー汁飲み込んでたくせに……! あ゙ー、今日からは全ッッッ部、このいやらしい雄子宮にぶっ掛けてやらなきゃ……」
「――ッあ゙♡貴方ぁ、ッ……それ、だ、め……で……!くる、……クるうぅッ♡♡ひぐっ、ゔぅううぅ♡♡あ゙っ♡♡あ~〜〜……♡♡あ゙……♡う、ッく、ふぅ゙、う……っ、んぅ……っ♡♡」
「ヴァレーさん、今もしかしてドライでイっちゃった? っ、ぐ……奥の痙攣エッロ……! はー、俺たちの愛の結晶出来るの楽しみ〜〜。奥、気持ちいい? あ゙~……なんかいつもと違う感触あるかも……もしかして、子宮下がってきてる?! うわ、これ入り口かな、粘膜吸い付いてきてる……!! 出来立ての小さいお口でもうチンコ頬張りたいんだ? 男の身体なのに物分かり良すぎだね。じゃあ俺も、新品のお部屋に遠慮なく注いであげるね♡」
「いや……それは……や、め……ッ♡♡ひあ゙っ♡ん、ぎ……ッ♡♡おっ♡♡ぉお゙♡♡うぅ゙う~~……ッ♡♡い゙、あぁああ゙ぁ〜〜〜ッ゙ッ!!」
「ッ、出る……ッ! ヴァレーさん、俺の精子一発で受精しろ……ッッ! っ、はぁ……。あれ、気絶しちゃった? まあ、これだけ出せば遺伝子選び放題かな? あー、早くお腹大きくならないかな。すぐ産まれるから子作りし放題って言われたけどさ。てか赤ちゃん、お尻からは出てこれないよね? ……ま、そんな事どうでもいっか。お腹裂いて治すのが一番手っ取り早そうだし」

 

——その数日後。

「ほら、見て〜!! ヴァレーさんにそっくり! 可愛い〜!!」
「……っ、か、は……ッ、うぐ……ッ……」
「あー……。回復は掛けたけど、俺信仰高くないからあんまり上手くなくてごめんね? もうちょっと我慢してくれたら塞がると思うんだけど——、って、あれ? ねえヴァレーさん、おっぱい張ってきてない?! もしかして、ミルク出そうと身体が頑張ってる?!」

褪せ人はそう言うと、ヴァレーの乳首をきゅうとつまみ上げて押し潰した。

「っ、ひゅ……ッ、は……ぁ……」
「セルブスが言ってたんだ〜。俺のお抱えの、あの魔術教授の事だけど。子宮いっぱい刺激してあげたらどんどん身体が作り変わって、乳腺からミルク出るようになるかもって。お腹治ったらまた愛し合おうね♡ 受精したら、もう二人目できちゃうね」
「いや……そんな、嫌です……も、許して……」

癒えていく身体にやっと口を開いたヴァレーが発したのは、生きながらに腹を裂かれた記憶と恐怖に慄く拒絶の言葉だった。

「薬の追加だ——おっと、取り込み中かね。君も飽きぬものだな」
「……ッ、は……っ、王は子沢山って、相場が決まってるでしょ……? あんただってお気に入りのそれ、うまくいってよかったね」

閨に踏み入った青いローブと奇妙な魔術帽子を被った男は、目の前で繰り広げられている激しい行為を興味深げにしげしげと眺めた。褪せ人は部屋中に愉悦の喘ぎを響かせるヴァレーを幾度も征服しながら、訪れた男——魔術教授、セルブスに目配せをした。

「ああ、君のおかげだよ。これは君に執心だったからな」

セルブスは青い肌をした少女のような人形を、自らの前に立たせて言う。

「……俺はヴァレーさん一筋だったけど。でもああ見えて、俺にだけデレてくるラニ様も可愛かったよ」
「その身体の具合はどうだね?」
「うん。今のところ最高だよ。でもまだまだ産ませる予定だから、楽しみにしててよね」
「~~ッ♡~~ッッ♡ふぁ゙あ……ッ♡あ゙っ、あ゙っっ♡ん゙、ぅうっ……♡♡も、イッ、て、る゙ぅゔ、……♡ふーっ……♡ふーっ……♡ひぃ゙いいッん♡ん゙、ぅ゙う、うぅう……♡お゙ほ、ぅぉお゙ッッ……♡」

褪せ人は我を忘れて獣のように喘ぎ続けるヴァレーを羽交締めにすると、その上半身をセルブスに見せつけた。

「ほら見てよ。もうこんなに胸もはちきれそうでさ。次孕んだらミルク噴き出すんじゃない? あ、そうだ、ボックに言っておかなきゃ。小さい従軍医師の衣装作るようにって。裸で動き回る子ヴァレーさんも良いけど、ずっとそのままじゃ可哀想でしょ。小さい白面付けた子ヴァレーさん、すっごく可愛いと思うんだ〜」

会話のさなかにも、途切れる事なく肉体が交わり合う猥雑な音が響き渡る。魔術教授はその光景を背にすると、物言わぬ人形と共に閨を後にした。

 

——それからさらに月日は経ち。
ヴァレーは重い身体を抱えたまま、浅い呼吸と共に寝台にしなだれかかっていた。周りには、ヴァレーの面影を持つ幼体がうぞうぞと動き回っていた。

「いやー、ほんと凄いよね! ヴァレーさんにそっくりの子しか産まれないのって奇跡じゃない? このペースでどんどん王都の人口増やそ、ヴァレーさん♡」
「あ、貴方……こんな事、もう……」
「あー、でもお尻ガバガバだな。ここも治してあげなきゃ。とろんとろんの入り口も好きなんだけど、俺のがデカいからあんまりハメすぎるとバカになっちゃうんだよね。でもリセットする前にもう一回ヤろっかな。今日もいっぱい愛し合おうね♡」

か細い声で訴えかけた言葉は聞き入れられる事もなく、抵抗すら失われた身体は易々と抱え上げられた。王たる褪せ人の言葉通り、限界まで使い込まれた尻穴は熟れきった果肉のようにぐじゅぐじゅと蕩け、陰茎を押し込む度に内部の体液が滲み出てしまいそうなほどの肉感的な潤みに濡れていた。

「うお、熱くてチンコ溶けそ……っ! ほら、後ろから突かれて雄っぱいミルク出すとこ見ててあげるよ♡」
「——ッお゙……♡はあ゙あぁあ゙あッ……♡♡……っぐ♡イぐぅ゙……ッ♡お゙ほ、ッッ……♡♡ふーっ……♡ふーっ……♡ん、んぅ゙うッッ♡♡はぁっ、はーーッ……い、ッぅぐ……♡い゙ぎっ、ふ、ぁ♡あ゙ぁぁあ゙ぁあ゙ッ」

快楽に慣らされ過ぎた身体は数度の突き上げで限界を迎え、ぷしゃぁぁぁぁッと音を立てては、はち切れんばかりに膨らんだ胸、ピンと勃ち上がった乳首から白い液体がとめどなく迸る。その時を待ちかねていたとばかりに、ヴァレーの面影をした幼体は、我先にと柔らかく弛みきった身体に這い上がった。

「みんなお待ちかねのご飯の時間だね? ねえ、ヴァレーさん。分かってると思うけど、今絶対におちんぽミルク混ぜちゃダメだよ。ちゃーんと我慢しててよね」

褪せ人は背面座位の姿勢でヴァレーの耳元に囁きかけると、腰部をぐぽぐぽと激しく密着させ、前立腺への激しい突き上げを繰り返していく。

「――……ッッ♡あは、ひぁ゙っ、んぁあああッ♡い゙ッ……♡お゙ッ、お、お♡♡ッ゙ぉおお゙♡♡――~~ッ♡!! あ゙……はぁっ……は……♡♡――ッお゙……♡それ、も、だめぇぇぇぇえッ♡いあ゙、ッ、クる……ッッ!!」

反り上がった長大な屹立に前立腺を激しく虐め抜かれ、身体の奥深くから全身をざわめかせて押し寄せる苛烈で甘い痺れの波に貫かれながら、ヴァレーの身体は雄としての絶頂をなす術もなく迎えさせられようとしていた。身重の身体を激しく揺さぶられ続け、耐え難い性感を逃そうと、喉と背を限界までしならせる。だが、暴力的に訪れ続ける感覚刺激についに耐えかねると——ヴァレーのペニスは我慢の限界と共に、勢いよく白濁を飛び散らせてしまった。

「あ゙——ッ、はぁ……ッ、はぁ……!!」
「あっはははは!! もう、ダメだって言ったのに〜〜〜! って、やべ……俺ももう出る……ッ!!!!」

結合部は密着したままに、ヴァレーの胎内には溢れんばかりの王の種が濁流の如く流れ込む。背面座位の体勢で両腕を手綱のように引かれ、膨らんだ腹を限界まで突き出し、無数の幼体にはち切れんばかりの胸元を這い回られている——。自らの吐精に脱力したヴァレーの身体は、急速に現実味を取り戻していった。ずるずると男の陰茎が引き抜かれる感覚、締まることのない空隙からは、放たれた精液が留められる事なく流れ出していく。行為の終わりに解放され、突き放された身体はシーツの上へと力なく横たわる。無意識のうちに膨らむ腹を撫でさすったヴァレーは自らの周りに群がる生き物に向けて、緩慢な動きでそっと手を伸べた。

「……あぁ、私の……」

自由なき身体で、ヴァレーは産み落とした自らの子らを眺めていた。一時は自らの分け身たる彼らに愛着を抱き、献身的に世話を試みようとしたこともあった。だが、その献身も虚しく、彼らはひとり、またひとりと息絶えていった。

「はー。いっぱい出したけど、もうお腹大きいからまた次だね。あれ? そっちのやつまた死んでるじゃん。もう、ヴァレーさんさあ。孕むのは得意なのに、育てるの向いてないんじゃない? みんな立つ前に死んじゃってるし。セルブスにも聞いたけど、原因分からないらしくてさ。まあ元々男の身体だったし、まだ赤ちゃん作り慣れてないのかもね? もっともっと練習すれば上手になるんじゃない? ……ってか、ヴァレーさんの身体まじでエロすぎでしょ。おじさんの身体のままでボテ腹抱えちゃってさ。……うっわ、見てたらまた勃ってきた。ねえ、責任取ってくれるよね? 早く俺とヴァレーさんだけの世界作りたいのにな。あ、そう言えば最近ボック見ないよね〜。全く、あいつどこ行ったんだろう? 毎日新しい服も必要なのに。王の子にお古なんて着せられないじゃん。でしょ?」

会話の合間に再び身体は抱き起こされ、緩んで白濁に塗れていた後孔はまた、ずぶずぶと弄ばれ始めていた。矢継ぎ早に捲し立てられる問いかけに、ヴァレーは何も応えない。もはやこの男との会話、そして返事にさしたる意味などないと知っていた。

腹の中では何物かが急速に細胞の増殖を繰り返している。上下に揺さぶられるだけの身体。身体の中から、次第に血液が奪われていく。ぼこぼこと膨らみ蠢く腹に、背後からするりと手が伸びた。

「……後でまた、お腹開けにきてあげるね」

耳打ちされる言葉に、ぞくりと身体が震える。再び胎内に大量の精が放たれるのを感じた後——ヴァレーはひとり、薄暗い部屋へと残された。

——ごそごそ、がさがさと響く音。
剝き出しの胸から滴る雫を求めて暗闇から這い寄る影。
ヴァレーは部屋の隅へと目を移した。そこには、無数の小さな影が折り重なるように積み上げられていた。それはいつか見た、名もなき白面の亡骸の群れのようだ。動きを止めてしまって久しいその上に、ぽつぽつと赤く小さな蕾が芽生え、咲き始めている。

耳には、無数の蠅の羽音が鳴り響いていた。