あれから、僕のアパートで絵は描かれなくなった。
だが、先生は変わらずに僕の前に裸体を晒している。
僕は学校にも行かず、込み上げる情動を全て目の前の身体に発散していた。思いの丈は止まるところを知らず、一日中行為に没頭して終わる日もあった。
ヴァレー先生は健気に声を我慢してくれていたが、そうしたところで部屋の中には肌をぶつけ合う音がひっきりなしに響いていて、壁の薄い空間は大の男の乱れた絡みに軋みをあげる。声を押し殺して快楽に耐えながらも僕を受け入れてくれる先生は、気が狂いそうなほどにエロかった。深く身体を繋げる度、全身をひくつかせる姿。熱に浮かされしっとりと濡れた肌は程よく柔らかで、それは僕がデッサンの授業で穴が開くほどに凝視した、あの身体だ。顔は快楽を思うように解き放てぬ苦悶に歪み、眉根を寄せて甘い鼻濁音を漏らしている。先生は僕に体内を犯されながら、あの睫毛に彩られた美しい目元を官能の愉悦に蕩けさせていた。これが、あのミステリアスに澄まして僕を翻弄していたヌードモデルのヴァレー先生だなんて。端正で気怠げだった顔は僕のチンポに穿たれる度に無様に崩れ、紅潮して快楽に緩みきり、よがる顔は余りにも「好きもの」のそれだった。
「はぁ……っ、貴方……ぁっ……」
押し倒され、組み敷かれている手が、僕に伸びる。首に絡められた腕に、ぎゅうと力が込められた。僕は先生を貫いたまま、上半身を抱き起こして対面座位の体勢を取った。上体が僕に引き寄せられる度にぐぷっ、ぐぷぷぷっと、より深くチンポが直腸内に押し込まれ、熱々の腸壁がぎゅっと締まる。先生の背はしなり、苦しげな喘ぎと共に喉笛が晒された。
「ん、うぅ……ッ……」
その首筋に、堪らず僕は齧り付いた。同時にヴァレー先生の内奥が、更にひくひくと痙攣する。密着したこの体勢では、抜き挿しはしづらい。だが、挿入部は先ほどよりもずっと、ずっと深く繋がって濃密に交わり合っている。
「貴方……も、深い……っ、は、どうにか、なりそう……っ」
「先生、イキそうなの? 好きにしていいよ。声も我慢しないで」
僕は腰をうねらせて突き当たりの肉壁を押し潰すよう、突き挿れた竿をぐりぐりと動かしてみた。途端、堪えきれない声が先生の喉から溢れ出る。僕はその声を聞きながら、繋がった場所を堪能するよう、先生の身体ををじっくりと味わった。ぐちっ、ぐちっ、と卑猥な音を立て、一定のリズムで上下に揺れる身体。体温で蕩けていく肉壁は僕の竿をみっちりと包み込み、喉からは甘えたような声が垂れ流されていた。上気した喉笛や鎖骨には、無数に浮かぶ赤い徴。そして、伝う汗の雫が光る。僕はそこに舌を這わせると、上体からピンと突き出している胸の先端を指でなぞっていく。いつの間にかぷっくりと膨らんで天を向いていたそれは、指の腹でシコるとより一層愛らしく、硬さを増し始めた。腰を抱いていた両の手を離され、支えを失った先生は、一瞬ぐらりと体勢を崩すと、僕の首に回した手に力を込めて、咎めるように見つめる。寄せられた眉根とむくれた表情は、歳上の男性のそれとは思えない程に愛らしい。先生が首元に手を回したのを幸いとして、僕は自由になった両の手を使って二つの突起を心置きなく愛でていった。一段沈んだ色、ぷっくりと勃ち上がった突起をきゅっと摘み、指の合間でくりくりと押し潰してやる。「ひあ、ん」という声が漏れると同時に、先生の頭が否定を示すよう、左右にふるふると振れる——。
それを見た僕の口元は、にやりと緩んだ。そのサインが、「これ以上は声が我慢できない」というものだという事を、今までの経験からよく知っていたからだ。その想像にむくむくと下半身が滾るのを感じながら、先生の耳元でこう囁いた。
「……大丈夫だよ。お隣さんはさっき出かけたみたいだし、窓もちゃんと閉めてるから。声、気にしないで」
「……そんな……、ぁ、だめ、です……っ、ん、あっ、あっ、ぁん……」
ぐずぐずに蕩けているお尻をたぷたぷと揺すり、挿入と愛撫を繰り返していく。先生の目は再び、とろりと快楽の深みに意識を落とし始めていた。
だが、僕は更に腰を突き上げる。
「ひ、ぃ、ぐ……っ?! んぁ、貴方ぁ……っ?!」
「先生……声、もっと聞かせてよ。気持ちいい事、好きなんでしょ?」
パンパンと、お互いの肌がぶつかり合う音をわざとらしく鳴らして言う。聳え立つ剛直を突き上げて、先生の身体の奥深くまで絶え間ない快楽の責めを与え続ける。汗ばむ首筋に、強く歯を立てる。その瞬間——先生の内奥が、ビクビクビクッ!! と小刻みに痙攣した。
お尻の奥で感じるために弛緩していた全身が硬直して、ぎゅうと僕にしがみつく。。
「ん……ひぁ、あぁ……っ!!」
時おり漏れるそれが、有り余る快楽を隠しきれていない。その度に口をぎゅうと閉じ、どうにか与えられる性感を逃そうとしているようだ。僕の方は、まだまだ余裕がある。体力的にも、先生の劣勢はいつも確実だった。
「貴方……そんな、もう……っ……! は、あ……、あ、んぁ……ッ……!!」
「っ、は……っ、こんなに気持ち良さそうなのに? ……いい加減、声出して男によがれよ……っ!!」
乱暴な言葉遣いに、ビクンと腰が揺れる。どこか泣き出しそうな、苦しげな声が震える息と共に吐き出された。僕はその声に愉悦を覚えながら、もはや無抵抗となった身体に暴力的な挿入を繰り返した。ヴァレー先生のペニスの先端からはひっきりなしに透明な液体が溢れ出し、激しくぶつかり合っている僕の下腹部との間には、ぬち、ぬちといやらしい糸が引いている。もう数時間は繋がりっぱなしの結合部はじゅぷっ、ぐぷぷっ、と卑猥な音を隠しもしない。僕の先走りの体液と潤滑剤とが混ざり合い、先生の直腸を爛熟した雄孔に仕立て上げている。濃密な抜き挿しにより熟れきったそれは柔らかく、男に媚びて従順だった。
——交わり合う性の色香と、くらくらする程の官能的な時間。ふとトリップしかけていた意識を戻すと、先生は僕の突き上げに合わせ喉奥から嬌声を溢れさせていた。哀願のように切なげなそれは次第に熱を帯び、もっと、もっととねだるように貪欲なものへと差し替えられていく。
「……ああ、貴方、そこ……♡ 気持ちいい……っ……♡ 奥が、奥が熱く疼いて……っ、も……あ、あぁ……っ!!」
ひときわ高い濁声に仰け反る身体。またもや軽いオーガズムに達してしまったのだろう。不随意かつ小刻みにヒクヒクと震える腸壁の振動が、僕のガチガチに感度の高まったそれを煽る。僕の亀頭はもうずっと前から、ヴァレー先生の結腸弁の縁に向かって侵入を試みようと頑張っていた。互いの身体がどちゅ、どちゅんと最奥まで深く繋がり合う度、僕の亀頭が結腸弁に食い込んで押し戻される。だが、そこはまだ容易に侵入を許してはくれなさそうだ。
「……ねえ、ヴァレー先生……。この奥、僕にくれない?」
そう言いながら、先ほどよりも強く先端を押し付ける。先生は快楽と苦しさの入り混じる、追い詰められた顔で僕を見つめていた。ここから先、僕はいつも彼に進退を委ねる。
「ここも、こっちもキスマークだらけだね。先生、他にモデルの仕事してない? しばらくお休みしなきゃ。……だってこんな裸、誰にも見せられないでしょ。男に抱かれてるってバレちゃうよ?」
言葉を通して、雄に征服されている立場を少しずつ自覚させていく。白い睫毛に囲まれた瞳が、言いなりのようにどろりと蕩ける。
「……後はどこにマーキングされたい? すぐに掻き出せちゃう場所に無駄打ちしていいのかな? 今すっげー濃いのパンパンに溜まってる。これ以上我慢できそうにないかも……。ねえ、出して欲しい場所、先生が教えてよ」
その言葉に先生の瞳の色が変わり、無精髭の残る口元からはうふふと笑みが漏らされる。僕の視界はぐらりと傾いた。身体が逆転して沈み込み、押し倒されたことを知る。見上げた先には、キスマークだらけの卑猥な裸体を晒したヴァレー先生が跨っていた。
「……ふふ、ウフフフフッ。あぁ……ならば、貴方のお望み通りに……」
騎乗位になった先生は、僕の欲望を飲み込んだままずぶずぶと体重を降ろしていった。ヴァレー先生の体内で垂直に聳え立つ僕の亀頭が、内部で終端の壁に押し潰される。その感覚は先ほどよりもずっと、ずっと強いもので——押さえ付けられた先端が、僅かに「痛い」と感じる程だった。先生の腰が、ぐっ、ぐっ、と更に沈められる。頭上から、微かな呻き声と苦しそうな溜息が漏れる。艶かしい顔に僕が見惚れた、その時に——。ぶちゅっ、ぐぽ、ぐぷんっっ!!! と何かをぶち抜くような、さながら破瓜の解放感が竿全体を吞み込んだ。侵入できない場所にぐにゅぐにゅと押し付けられていた亀頭は、新たな開放と共に吸い上げられる。それと同時に、僕の頭上からは「ぐ……ぅっ、うぁぁぁっっ!!♡」というあられもない叫び声が響き渡った。僕の部屋の窓は前もってわざと開けておいたうえに、隣にはやもめ暮らしの男が住んでいた。前々から、そいつがこっちの情事に興味津々だという事も知っていた。先ほどまでの密やかな喘ぎ声だって、壁に耳を当てていたならば聞こえていただろう。先生を招き入れる時に、わざわざ家に居ることを知らせるためか、無駄に外にタバコを吸いに出てくる事もあった。僕はその事実に、興奮していた。だが、今の叫び声は流石にやばい。外にもがっつり響いただろう。それと同時に、ものすごい締め付けが僕を襲う。
「なっ……ヴァレー先生、それ……!! 声も、やばいって……!!」
「――ッ、ひぐっ、ぁ、っ、ううう、っ、あ~……♡ ……、う、ッく、ふう……!! んぎッ、おっ♡ ぉ♡ うう~~……ッ♡」
一段深いところに自ら身を沈めた先生は絶叫の汚喘ぎと共に背をしならせると、触れられてもいないペニスからトコロテン射精さながらに透明な潮を噴き出した。ひくひくと真っ赤に震えた顔が脱力して、だが妖艶に笑んだまま僕を見下ろす。その顔があまりにもエロくて淫乱で、僕の理性も焼き切れた。先生は何かを言いかけるよう口を開いたが——続く言葉を言わせないまま、最奥に亀頭をぶっ込んだ状態で何度も何度も雄子宮を揺さぶって掻き回しては虐め抜く。
「っ、ひいっ、う、ぐぅぅっ、ぐぉぉっ♡♡」
もはや獣のような汚喘ぎが喉奥から搾り出されていく。ああ、隣の男はこのド淫乱な声を聞いて何を感じているだろう? パンパンと肌を打つ音、先生の喉奥から直通で響く喘ぎ声。先生の腰も、俺を求めて激しくうねり、揺れていた。
その全てに興奮しながら、日々先生のためだけに製造され続ける新鮮な精子をこれでもかとぶち込み続けた。——そう、いつもこの瞬間。精液を流し込まれる時のヴァレー先生は最高に綺麗だ。自ら最奥の部屋に男を招き入れて、為す術もなく種付けされて、僕だけのものになる瞬間。先生も、きっと中に出されるのが好きに違いない。その証拠に、種を搾りきるまでは絶対にチンポを離さない。しばらくは繋がったまま、尿道の残り滓のザーメンまでもが潤んだ粘膜にシコられて、一滴残らず絞り出される。
そうして、先生は満足そうに息をつく。恍惚として蕩けた瞳で、最後に全身を弛緩させる。ふにゃりと硬さを失った俺のものは、ゆうに数時間ぶりに先生と分かたれた。
「……先生、あの秘密、そろそろ教えてくれてもいいでしょう? 学長の理念に賛同してわざわざ大病院でのキャリアを捨ててここに来たって」
未だ性感の余韻を追いかけるよう、紅潮し涙に濡れていた薄金の瞳が僕を見つめ返す。
「……貴方も知りたがりですね。好奇心は猫をも殺すと、聞いた事はありませんか?」
先生は、胸を上下させながら、本気とも冗談ともつかない声音で言う。
「私はあの御方の……モーグ様の、彼の造る理想郷を実現させたいのです」
「理想郷?」
「ですが、その為には成さねばならぬ事が山積みで……」
ヴァレー先生はそう言うと、僕の腰に足を絡みつかせる。柔らかな尻肉が、ぐりぐりと押し付けられていた。僕はむくむくと硬くなっていく怒張を隠しきれずに、ごくりと生唾を飲み込む。そして、先生は誘うように腰をしならせた後——再び僕の欲望を体内へと導いた。溶け合うように繰り返される欲の希求。憧れの人と交わり、一体になり、溜まりに溜まった醜い劣情を体内に受け止めてもらう甘美な瞬間——。
それはあまりにも背徳的で、征服的で、満ち足りたものだった。
†
「——っ、ふふ。よく出来ました……私の貴方。また好き放題に欲を放って……」
「……はぁっ、は……。先生……っ、に、あんなことされたら、誰だって……!!」
「ウフフフフッ。孕んだらどうするおつもりですか? 責任、取っていただけるのでしょうね」
「なっ、それは……っっ!!」
先生は下腹をすす、と擦り上げた。それは淫乱な妖婦さながらで、無論ありえない妄想なのだが、先の台詞の先を想像した僕は返事に窮してしまう。先生の瞳は揶揄いの色を灯したまま、僕の身体にしっとりと身を這わせて耳打ちした。
「……私の貴方に、特別なお話です。学長の主催する会に、入会する気はありませんか?」
「え?」
「……とても光栄な事なのですよ。それは選ばれた者のみが集まる秘密集会でして……」
唐突に打ち明けられた『秘密』に、僕の理解は追いつかなかった。
「どうして、僕が?」
「……それは貴方だからこそ。私は見込みのある方だけに、特別にお声掛けしているのです」
そう言うと、先生は乱れ、解けていた髪を掻き上げて僕に示す。耳の後ろには、赤い、小さな刺青があった。
「これはモーグウィンの聖槍の印。モーグ様、そして我々は——二本指とは異なる信心の元で動いているのです」
「え、という事は、異教の……? 僕はてっきり、学長はミケラ派なのかと——」
途端、ヴァレー先生の目つきが鋭くなる。口元に指を当て、僕の前に顔を近づけた。
「……貴方、くれぐれも用心なさい。あの講師は、二本指の信徒でした。少し探りを入れると、異教の徒は秘密警察に通報するとまで言い放ちました。この周りにも、どんな輩が潜んでいるか分かりません」
そう言うと、ヴァレー先生はちらりと隣の壁に目を遣る。窓が開いていることも、知っていたのかもしれない。
——なぜ僕が選ばれたのかという疑問は浮かんだものの、だが先生の誘いを断る理由など見つからない。裏社会の要人が集まる秘密集会。そこではどのような事が行われているのだろう? 僕の胸は『特別』という甘美な響きに酔い痴れていた。これこそが、僕がかねてから望んでいた「平凡な生活の終わり」ではないのだろうか? 新たな人生が、今ここで花開こうとしているのかもしれない。
「……ぜひ、お願いします」
そう返した言葉に、先生は無言のまま僕の手を取ると指を口に含んで妖しく舌を這わせていった。ひとつひとつが官能映画のような妖艶な仕草に、また全身が熱くなる。
薄金と白銀に光る目元は僕を見上げて、こう言った。
「おめでとうございました、貴方。ようこそ、『モーグウィン王朝』へ」